第9章 大方は真しくあひしらひて、偏に信ぜず、また疑い嘲るべからず
公任と銀邇が近付くと、女性たちは井戸端会議を中断してこちらを向いた。
「すみません、旅の者です。少しお尋ねしたいのですが」
女性たち……4人は一瞬、目を合わせて頷き合った。
「はい、構いません」
この中では1番年上と思しき女性が答えた。
公任が礼を言って、単刀直入に尋ねる。
「この村は最近できたばかりなのでしょうか? 地図にはこの村の表記が無かったので」
「ええ、できて2年くらい経ってます。お役人の方もまだ訪問されておりません。先代の領主様がお亡くなりになられ、息子様が引き継いだ後、ここまで領地を伸ばしました」
公任はふむふむと頷きながら聞く。銀邇は周囲を目だけで確認していた。
公任はこの後も村について聞き出したが、彼女たちが答えてくれた限りでは、特に不審な点もなく、法も行き届いていた。
公任は瑞雲の言っていたほど彼女たちが悪い人のように思えず、端なくも聞いてしまった。もっと多くの村人から話を聞いてから尋ねようと考えていたが、この妙な引っ掛かりは直ぐにでも取っ払いたかったのだ。
しかし、それが間違いだった。
「この村に来る途中の道に、草庵があるのはご存知ですよね?」
刹那、彼女たちの眉間に皺が刻まれた。奥歯を噛み締める者、爪が食い込むほど拳を握る者、身を守るように腕を抱く者、両耳を塞ぐ者。
そして彼女たちの口から醜い言葉が飛び出る。
「あれは化け物だ! 子供を喰らう鬼だ!」
「奴は経を説くと言って子供たちを連れて行った! しかし誰も帰って来やしない!」
「皆で様子を見に行ってみれば、少女らは何かに取り憑かれたように歌い、少年らの姿が見えない」
「返して! うちの子を返して!」
公任と銀邇は思わず目を見合わせた。しかし、握り拳から血を垂らした女性に声をかけられて、意見の確認が取れなかった。