第7章 いま一度めぐりあわせて賜び給へ
「暁夫様、『黄金の草原』という本をご存知ですか?」
梅花の問い掛けに、暁夫は首を傾げた。
「知らないが、それが今と関係あるのか?」
「ええ。そうでなければ、こんな話はしませんし、私があなた方を襲う動機にもなりません」
梅花は一息置くと、暁夫を向いた。
「『黄金の草原』の読者の中で、[ある条件]を満たした者だけが手にする、不思議な能力があります。それが先程の陽露華様のような力」
暁夫は無意識に陽露華を見た。彼女は梅花を見つめたまま、眉を潜めている。何か考えているようだ。
「暁夫様が『本』を知らないというのなら、この場では完全に部外者ですね。少しの間、眠っていてもらいましょうか?」
梅花が言い終わるや否や、暁夫は口に、薬を仕込んだ手拭いを押し当てられて気絶した。
「暁夫様っ!!」
「陽露華様が心配する必要はありません。目覚めたら関節が麻痺して、目眩と頭痛で3日間寝たきりになる程度の毒です」
(それってかなり危険では……?)
陽露華はもう気付いている。銀邇が蔵に入れられている事に。
もしかしたら、同じ毒で動けなくなっている可能性がある。
どうにかして閂を外しさえすれば良いのだが。
暁夫が地面に寝かされた瞬間、暁夫を拘束していた人の狐面が吹っ飛び、暁夫の上に被さるように倒れた。
狐面が外れたその人に、陽露華は見覚えがあった。
「松永さん?!」
給仕係の松永。昼間、応接室に居た公任や少女達にお茶を振る舞った女性。
松永をたった1度の蹴りで気絶させた公任は刀を抜いた。
「さあて、……俺の仲間を返してもらおうか?」
公任の目は、普段よりも青に近い瞳で、陽露華の背後にいる人を竦み上がらせる。
「何をしてる! 応戦せよ!」
梅花の指示の直後、陽露華の背後から人が消え、公任の背後に移ったが、
「へえ、速いね」
公任は既にその人の狐面を真っ二つに切っていた。
公任から跳ねて距離を取った人物にも、陽露華は見覚えがあった。
「竹井さん……」
今日の為に館に厨房の手伝いで入っていた板前。あまり面識はないが、割とどこからでも彼の笑い声は聞こえた。
公任の目は更に青白く光り、太陽の光を反射した月の光を反射する。