第6章 君の福徳によりてその身を刹那に転じて人に成りたり
異変に気づいた陽露華と暁夫は銀邇の部屋に来たが、誰もいなかった。
続いて公任の部屋にも行くが、やはり誰もいない。
「銀邇さん、蔵で何かあったんじゃ……?」
「急ぐぞ!」
暁夫の案内で2人が蔵についた時には、誰もいなかった。
月が煌々と輝き、裏庭を妖しく照らす。
「銀邇さーん! どこですかー!」
「居たら返事してくださーい!」
暁夫と陽露華は声を掛けながら蔵の周辺を探す。
月明かりだけが頼りなだけあって、周囲の状況が分かりにくい。
「俺、提灯貰ってくる。陽露華は探すの続けて」
「わかりました」
暁夫が館に戻って行くのを見届けて、陽露華は捜索を再開する。
やはり何も見つからない。
陽露華は不安がよぎり、公任にも頼ろうと思い至ったが、彼がどこの広間にいるのか分からなかった。
それにまだ戻らない暁夫に、何も言わずにここを離れるのは却って心配させてしまうだろう。
(どうする……考えろ……考えろ……)
今の自分の持つ力で、人の目を引いて、助けも呼べる。
夜だから明るいものが目を引きやすいはず。
室内にいても気付くような大きな音も必要だ。
1度だけでは気に留めてもらえないだろう。
数回に分けた方がいいに決まってる。
陽露華がその場に屈んだ時、懐が急に軽くなった。
地面に落ちたそれを拾い上げ、中を開く。
銀邇からもらった、金属について記された巻物。
金属、光、大きな音、人目を引く……
花火だ!
(でもどうやって!? 火薬なんてないし、金属なんてこの裏庭に都合よくあるわけない!)
陽露華が一瞬見えた希望の光を消し去ろうとして、ふと思い至った。
(そういえば私、『失望者』に襲われた『踏まず人』だ)
そう。失望者に襲われた踏まず人は不思議な力を手にする。
その原理や理屈はさっぱり解明されていないが、平等な仏の心遣いと言えよう。
(試してみる価値はある!)
陽露華は巻物を開いて、手を合わせた。