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黄金の草原

第6章 君の福徳によりてその身を刹那に転じて人に成りたり



時間は少し戻って、銀邇が梅花に連れられて、館の裏の蔵に来ていた。


「紅子様、銀邇さんをお連れしました。……紅子様?」


梅花は蔵に近付いて声を掛ける。紅子本人の姿がない。

銀邇は蔵及び梅花から、かなり離れた位置で待機する。

梅花は周囲を引っ切り無しに探し回り、蔵の閂が開いていることを確認した。

梅花が銀邇に駆け寄る。


「どうやら、蔵の中でお話がしたいそうです」
「……」


銀邇は怪訝そうに梅花を見て、蔵に近付く。背後から梅花が付いてくるのをわかっていながら。

銀邇は蔵の入り口に立ち、閂が外れていることを確認する。鋼鉄の扉は1寸程開いていた。中に人の気配は無い。

銀邇が後ろを振り向くと梅花は居らず、狐面を付けた人間が銀邇の顔に袋を被せようとして腹に膝蹴りを食らった。

銀邇は喘ぐ狐面の人間を組み伏せ、面に手を掛けようとしたが、奴の踵を顔面に受けた。

狐面は人間と思えない柔軟さで銀邇に反撃して拘束を解く。

銀邇は腰の刀を抜こうとして、出来なかった。
刀がない。


「探し物はこれですか?」


狐面の人間の背後から、銀邇の刀を持った梅花が現れる。


「これ、大事に抱えて寝てましたね。見てましたよ」


梅花が言っているのは今日の夕方のこと。


「陽露華様だけでなく、紅子様を誑かして怪我を負わせて……見かけによらず、外道ですね」
「言いたいことはそれだけか」


銀邇は拳を握って顔前に構える。足を引いて、いつでも走り出せる態勢になる。


「やれ」


梅花の合図で狐面の人間は走り出し、銀邇が見切る前に頬に1発入れる。


(速いっ!)


銀邇は1歩の後退りで態勢を立て直すと、狐面に向かって拳を振るが流され、逆の頬を殴られた。
銀邇は勢いのままうつ伏せに倒れ、足を掛けて相手を転ばせる。素早く起き上がり、寝技を掛けるが、相手の柔軟な身体では簡単に逃げられてしまう。

銀邇が次の攻撃に移ろうとしたその時、


ガツンッ


後頭部に強い衝撃が加わり、歪み回る視界で、梅花が刀の鞘に血をつけて構えている姿を見た。

すぐに口に何かを当てられ、意識が途絶えた。



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