• テキストサイズ

黄金の草原

第6章 君の福徳によりてその身を刹那に転じて人に成りたり




「暁夫! 何だその格好は! ——お前が犯人だな! 紅子姉さんに次いで暁夫にまで……!」


暁夫が着崩しているのを良いことに、幸太は陽露華に掴みかかる。


「きゃっ!」


陽露華は両目を固く閉じて、幸太に殴られる備えをした。

以前の暁夫なら、見てるだけだった。

しかし今、話すべき人に全てを打ち明け、成長した。

以前の暁夫はもういない。


「兄上! おやめください! みっともないです!」
「っ!?」


突然の弟の制止と暴言に、幸太は動きを止めた。
幸太に掴まれている陽露華の着物の襟が伸びて、右肩が出そうだ。


「これは自分で崩しました! そいつは関係ありません!」
「嘘付け、暁夫! コイツがやったのは分かりきってる! 庇う必要はない!」
「話を聞け馬鹿兄貴っ!!」
「うおっ!?」


暁夫の回し蹴りが幸太の腰に力強く当たる。

幸太は衝撃で陽露華を突き飛ばし、陽露華は床に転がってうつ伏せになった。


「いきなり何すんだ!」
「それはこっちが言いたい!! 陽露華を見つけた途端に掴み掛かって意味の分からない濡れ衣着せて! みっともない! 恥を知れ!」


暁夫は息を大きく吸うと、更に続ける。


「俺はもう、兄貴の背中に隠れてるような弱虫でも泣き虫でもねぇ! 自分の信念は最後まで貫く! そしてこの家を出て行く!」
「暁夫……お前はこの一瞬で、何があったんだ……?」
「何もねえさ! 俺は昔から、こんな奴だ!」


自分の言葉の矛盾に気づかないくらいに興奮した弟に言葉を失った幸太は、来た道を戻ろうと動いて、視界に捉えた。
陽露華の着物の下に広がる、焼け爛れた火傷を。


「お前は! お前はやっぱり呪われてるんだ! 綺緋おばさんの言う通りだ! ああああああ!」


悲痛な叫び声を上げて幸太は逃げ帰る。


「ただの火傷に大袈裟なんだよ、な?」


着物を直す陽露華に暁夫は手を差し出す。

陽露華は躊躇わずに手を取り、立ち上がった。


「そういえば紅子姉さん、夜会中ずっと暗い顔して、何かに怯えながら水だけ飲んでたけど、何か知らない?」
「え? 外には行かれてないんですか?」
「うん、出てない。……何かあった?」






/ 116ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp