第6章 君の福徳によりてその身を刹那に転じて人に成りたり
公任が身支度を済ませて、いざ夜会へ行こうと扉を開けたら、目の前に梅花がいた。
公任は驚いて声を上げそうになったが、間一髪で堪えて、笑顔を作る。
「梅花さん、どうかしましたか?」
梅花にははっきりと、この部屋に銀邇と陽露華が居ることが認識された。
「ここにいらっしゃいましたか、銀邇さん」
銀邇は身構えた。無理もないだろう、紅子を傷付けているのだから。
銀邇の緊張に対して梅花は和やかだった。
「紅子様が無礼を謝りたいと申しております。蔵までご案内致します」
「なぜ蔵だ。わざわざ人目のつかない場所に行く必要は無いだろう」
銀邇の指摘に梅花は賛同するが、「紅子様のご意向です」と言って聞かない。
公任はどこか楽しそうに銀邇の説得に加わる。
「も〜、銀ちゃんは乙女心を分かってないな〜。ほら、行くだけでいいんだよ、行くだけで!」
「あの女はそれで済むとは思わんが」
「うん、否定はしないでおこう。『あの子』と似て、粘着質だからね。銀ちゃんはああいう子に好かれやすいのかな?」
『あの子』とは?
陽露華は気になったが、2人の男の会話に耳を傾けた。
「『あいつ』をあんな女と一緒にするな」
銀邇はそう言ったきり、口を噤んでしまった。椅子に座ったまま腕を組んで目を伏せる。
梅花はまだ頼んできた。切実に。
陽露華もそろそろ「承諾してあげればいいものを……」と思い始めた時、銀邇と目が会った。
陽露華は突然の事に身動きが取れなかったが、銀邇はすぐに目を逸らすと立ち上がった。
「どこだ」
その短い返事は承諾を意味する。
梅花は銀邇を連れて部屋を出て行った。
公任も夜会に行くべく部屋を出ようとして、陽露華を振り向く。
「何かあったら大声出してよ? すぐ行くから」
陽露華が頷くと、公任は手を振って部屋を出た。
残された陽露華は、自分が書いた家系図を折り畳んで机の文鎮で抑える。
公任の部屋を出て、衣装部屋に向かう。