第3章 しぼめる花の色なくて匂い残れるがごとし
町に入ってすぐ、3人は安くて清潔そうな宿を探し出し、2部屋借りた。
「本当に1人で大丈夫? 俺もそっち行こうか?」
「下心丸出しで何言ってんだ。お前はこっち」
「ちょっ! 銀ちゃん首絞まる! 何かあったら大声で呼んでね!」
陽露華が困惑しているうちに、公任は銀邇に引っ張られて隣室に入って行った。
陽露華は右足を引き摺りながら、借りた部屋の窓に近寄って開けた。
2階の窓から見える景色はやはり違う。
泥のついた足袋を見て、シワと汚れが目立つ着物を見て、ため息を吐く。つい左手が右腕の火傷を触ってしまう。
まだ慣れない。
陽露華が黄昏ていると、襖を叩かれた。
返事をすると、公任が襖を開けた。
「町を見て回ろうと思うんだけど、一緒にどう?」
断る理由はなかった。
陽露華は公任におんぶされて町を歩く。
銀邇は別の用事でいなかった。
公任は最初に履物屋に入った。足袋と下駄の新調の為だ。
陽露華は少し大きめの足袋と、旅に適した草履を買ってもらった。
次に寄ったのは呉服屋。
やはり4月なので、桜柄の着物が多い。
陽露華は1番安くて動き易く、くすんだ桃色の着物を選んだ。
公任はもう少し良い物でも構わないと言ってくれたが、陽露華はどうしてもこれが良かった。
近々母と会うならば、尚更である。
最後は、病院に寄った。
陽露華の火傷の治療をしっかり施す為だ。
雑木林で応急処置をしたものの、完璧ではない。
赤く爛れて、皮膚がすっかり硬くなってしまっている。
医師は痕が一生残ることを告げ、化膿を防ぐ薬と痒み止めを処方した。
捻挫した足には湿布薬を貼り、包帯で固定された。
痛みもなく、歩けない事は無いが、しばらくは絶対安静が望ましい。