第2章 世の中にさらぬ別れのなくもがな千代もと嘆く人の子のため
「寝覚めはどうだ」
銀邇は茂みを踏み超えながら聞く。今度は着物を着ていた。
少女は顔を伏せて、右上腕を触る。
銀邇は側に寄って胡座をかいて座った。
「水だ。川のを濾過してきた」
竹の水筒を正座した少女に差し出す。会釈して受け取ったが、飲もうとしない。
彼女の態度に、銀邇は特に気にしていないが、誤解されていたら困るので言い加える。
「別に毒なんか入っちゃいねぇよ」
少女は水筒を見つめたまま頷いたが、やはり飲もうとしない。
彼女は口をもごもごと動かして、何か言おうとしているが、なかなか切り出せない様子だ。
銀邇は最初こそ待とうと思ったが、呑気にまだ寝ている公任を見て、そうも言ってられないと感じ、
「聞きたいことでもあるのか」
と、尋ねると、彼女は重い口を開けた。
「お父様はどこに居ますか? 葵は無事ですか?」
銀邇は思わず苦笑してしまった。
言わずもがな、質問者は困惑する。
「この状況下で他人の心配とは、お人好しだな」
「あの、その……」
「親父さんは、どこにもいねぇよ」
銀邇はまっすぐに見つめて、父の死をはっきりと伝える。
彼女は火傷がある腕を着物の上から触った。体は小刻みに震え、唇を白くなるまで噛みしめ、目を強く閉じて。
銀邇はかける言葉を失った。こういうのは公任の役目だ。
「まあ、なんだ。今急いでも状況は変わんねぇ。そこの色男がお前が寝てる間に情報収集に出てたから、起きたら聞いてみろ」
銀邇は、まだ眠っている公任に丸投げした。