第1章 思ひせく胸のほむらはつれなくて涙をわかすものにざりける
「うっ……」
陽露華が目を覚ますと、夜明けだった。
誰かの着物の上で横になっている。頭があったところに涙の小池を作っていた。
周囲を見回すと、人1人分空けた隣で公任が体を丸めて寝ていた。
陽露華は一瞬、体を震わせて驚いたが、昨日の火事を思い出した。
いつもの如く、書物を読み漁っていたら突然、父の叫び声を聞いて、書物の部屋を飛び出そうとしたら、出掛けていたはずのUと鉢合わせし、強く押し飛ばされて、本棚にぶつかり、倒れてきた本棚の下敷きになった。
その時に頭を強く打ったのか、それ以降の記憶が全く無い。
Uが何か言いながら探していた気がするが、よく思い出せない。
陽露華は自分に掛けてある羽織りが公任の物であることに気が付いた。だとすればおそらく、敷いてある羽織りは銀邇の物だろう。
ここは、どこかの雑木林であるのは間違いない。
羽織りを公任に返そうと足を動かした時、自分が足袋のままである事に気づいた。着物の節々が焦げ目の様なものを作っている事にも。お気に入りだったのに……。
陽露華はそっと、着物の焦げた小さな桜を撫でる。
胸の内で蠢く、この小さな焔は何だろうか?