第1章 甘い?甘くない?……やっぱり、甘い
すると、ゆっくりと師範が私の方を向いた。左右違う色の綺麗な師範の瞳と目が合った。
「お、お前……なぜあんなことを言った……」
やはり私の謝罪は聞いていなかったようだ。
「あのままだと師範の虹彩異色症がバレていましたので、面倒だと思いまして。師範には悪いですが、夫婦(めおと)ということにしてそちらの認識を強く持たせたままあの店主と離れたかったのです。」
「だ、だが、だからと言って"あなた"など……」
「ですので謝っているじゃないですか。師範が固まって聞いていなかっただけです…」
私に指をさしながらワナワナとしている師範に、頬を膨らませながらそう抗議する。本来なら柱に抗議など許されないが、今の師範は柱じゃない。伊黒小芭内だ。
「俺みたいな醜男と夫婦だと思われたままなど、に申し訳ない。今すぐ訂正しに戻るぞ」
「だーっ!もういいんですって!師範は虹彩異色症がバレたんですよ!あの店主に!無駄に近づくことないですから!」
バッ!と立ち上がった師範の羽織を掴んで止める。それに、申し訳ないのは私じゃなくて師範だ。蜜璃ちゃんが好きなのに、私と夫婦だと思われているのだから。
お互い様だ。