第1章 レモンティーの行方【ミスラ】冷→甘
「一昨日は眠れたのに昨日は眠れなかった…。うーむ…」
「何か原因があるかもしれんぞ。うーむ…」
腕組みをして双子は難しい顔をする。
「あのー」
ルチルがおずおずと小さく手を挙げた。
「なんじゃ?ルチル」
「賢者様も昨晩は眠れなかったんですよね?」
「はい。その、いろいろ考え込んでしまって…」
二個目のクロワッサンに手を伸ばすミスラを横目で見やる。
「こうは考えられませんか?賢者様が眠るとミスラおじっ…ミスラさんも眠れるのでは…?」
「え?」
「は?」
私とミスラの声が重なった。クロワッサンを頬張りつつもちゃんと聞いていたようだ。
「それじゃ!」
双子の声も重なる。
「あくまでも仮説じゃが、賢者の力というのはいつでもホイホイ出せるものではないじゃろ?」
「そう言えば、そうですね。生命の危機を感じた時にだけ…でしょうか」
必死に祈ったり願ったりした時にしか発動していない。
それこそ自身のピンチや人の生き死にに関わるような時だけ。
「平穏に過ごしている間は、賢者の力というものは眠っている状態なのかもしれん。」
「賢者自身がストッパー代わりになっておるわけじゃな」
「じゃが、眠るという無意識下において若干力が解放される、漏れ出しておると言った方がいいかもしれんな。そういう状態になっておるんではないか?」
二人の言う事はよく分かった。ルチルが先程言ったように私が眠らなければ賢者の力は漏れ出さない。だから昨晩ミスラは賢者の力の影響を受けられず眠れなかったということになる。
「原因が分かって良かったですね!賢者さま」
にこやかにリケが言う。
「そ、そうですね」
口元はリケに合わせて笑おうとしつつも引きつっているのが自分でよく分かった。
「つまり…」
ミスラはおもむろに立ち上がった。
「賢者様が生命の危機か、寝ている時なら俺も眠れるんですね?」
ぼそりとそう呟くと
「アルシム」
何も無かった空間から1メートルほどの巨大な氷が三つ現れた。
「ミ、ミスラ、何ですかそれは…!氷柱に見えますけど!」
慌てながらも何かの冗談かと思った。
だが、驚きで立ち上がった体は恐怖を感じているのかそこから動けない。
「ええ、氷柱ですよ。氷の森にある洞窟から拝借しました」
「ミスラや!」
「何をしておるんじゃ!」
双子が私の前に庇うように飛び出した。