第1章 レモンティーの行方【ミスラ】冷→甘
「慣れれば良いって言われても…」
「俺に緊張しないくらい慣れてくださいよ。そうすればあなたも眠れますし添い寝もお願いできるじゃないですか」
ミスラの言っていることが正しいのかどうか判断出来なくなっていた。
寝不足のせいか、それとも深夜特有の雰囲気のせいか…。
「慣れるといってもどうすれば良いのか」
目の前のミスラをまじまじと見た。
クマがあっても相変わらずの美青年。
今のこの距離でギリギリ緊張しなくてすむ加減だ。
ミスラは少し考えた素振りを見せて
「これ交換しましょう」
ミスラが指さしたのはお互いのマグカップ。
私が状況を呑み込む前にミスラは私のマグカップを取り上げ、代わりに自分のものを差し出した。
何が何だか分からないままそれを受け取る。
「…えっと?」
「前の賢者が言ってたのを思い出したんですよ。お互いのサカズキ?…ってカップでも良いですよね?それを交すと距離が縮まるとか何とか」
どこの任侠映画の話だろう。
前の賢者様は色んなことを吹き込んでいたようだ。
「つまり?」
「飲んでください」
ぬるくなってしまったミルクを飲むよう促される。
ミスラはというとレモンティーを一気に飲み干していく。
「私のレモンティー…」
「賢者様」
ミスラがじっとりとした目でこちらを見てくるので渋々自分もミルクを口にした。
蜂蜜の甘い風味が鼻を通り抜けていき、冷えかけていてもそれは美味しかった。
「間接キス」
「ぶっ!!」
口に入れたミルクをミスラの顔に思い切り吹き出すところだった。
「なっ…!!」
いきなり何を言っているんだろうこの人は!
「あははっ」
声を上げてミスラが笑う。
初めて見る、ちゃんとした笑顔。
つい言い返すことも忘れて見入ってしまった。
こんな風に笑うんだ…。
「レモンティー美味しかったです」
私の反応を可笑しそうに眺めながらミスラは言った。
私が飲むはずだった大好きなレモンティーは今、彼の中。
慣れるかどうかは別として、これで前の賢者様が言った通り少しは距離が縮まった、のかもしれない─────
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「何か目が冴えてきました」
「レモンティー飲むからですよ!カフェインが入ってるんですから!」
「今晩も眠れそうもないですね。賢者様、付き合ってもらいますよ」
二人の長い夜はまだ始まったばかり───────