第1章 レモンティーの行方【ミスラ】冷→甘
今夜は冷える。
先程の扉の隙間から見えたものを思い出した。布団一式持ってきたと思っていたが毛布1枚と枕のみ。冷たく硬い床に横になれば体がすぐに冷えてしまうだろう。
北の魔法使いだからといっても寒いものは寒いはず。
ミスラ 寒くないのかな。体調を悪くしないといいけど…。
気になるが今度話し掛ければ何をされるか分からない。かといって自分だけ呑気に寝てしまっていいのだろうか。
賢者として人として扉越しのこんな近い距離で冷たい床で横になっている彼を放っておいていいのだろうか?
ただ、でもそれはミスラ自身が希望したことだ。話しかけたところで迷惑に思うだろうし。
…小さく葛藤しながらミスラがいるだろう方向を見つめた。
はぁ、と扉の向こうから溜め息が聞こえる。
やはり眠れないのだろうか?
声を掛けるべきだろうか、でも何て言えば?
この夜、その小さな葛藤は続いた。
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「我らの賢者ちゃんが・・・!!」
「賢者ちゃんどうしたんじゃ!」
朝、支度をして食堂に行くと双子の叫びにも似た声が響いた。
「スノウ、ホワイト、おはようございます」
シバシバした目を擦りながら挨拶をした。
「賢者さん、一体その目どうしたんだ?」
ネロが調理場から顔を出して驚いた声を上げる。
朝、自室の鏡で確認した自分も酷い顔だなと感じた。
目が赤くなり二重が三重になっていたのだ。何だか顔色も悪い。
「…あぁ、寝不足で。殆ど眠れなかったもので」
苦笑いしながら双子の向かい側の席に着いた。
「まっまさかミスラに何か…」
ネロが一瞬眉間に皺を寄せたが
「いえ!何も!完全に自己責任です」
慌てて否定した。
そう、只々眠れなかっただけ。
ミスラに何かしてあげられることはないか一晩探していたのだ。気がつけば朝になっていた。
日が昇り始めた頃、扉越しのミスラは帰っていった。彼もまた眠れなかったようだ。
朝食を摂っているとリケやミチル、ルチルもやってきたがその度に驚かれ心配されてしまった。