第1章 レモンティーの行方【ミスラ】冷→甘
「ね、ミスラ」
「何です?」
「あんな所で寝ていたら風邪をひいてしまいますよ?」
咄嗟に出てきた言葉にしては機転が利いていた。
…と思ったが
「ここ何十年も病気にはかかっていませんので平気です」
撃沈した。
「冷たくて硬い床ですから体が冷えますし痛くなりますよ?」
絶対寝心地は良くないはず!
「・・・・・・・・・」
少し考える素振りを見せたミスラ。
考え直してくれただろうか…?
「はあ、では布団一式持っていきます」
更に悪い方向へ進んでしまった…
「一気に距離が縮まる二人♡」
「ミスラちゃん大胆~♡」
キャーと双子の楽しげな声
「…賢者さん 助けてやれなくてすまない。」
ネロが申し訳なさそうにこちらを見る。
「何を言っているんです?」
元凶のくせによく分かっていないミスラ。
諸々の声を私は意識の遠くなる思いで聞いていた。
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部屋で賢者の書を読んでいたその夜、扉越し廊下の向こうからズズっと何かを引き摺って近付いてくる音が聞こえてきた。
間違いなくミスラだ。
きっと本当に布団一式を持ってやってきたのだろう。
部屋の前までくると引き摺っていた音は止み、少しばかりの静寂。バサッという音がしたと思ったらまた静寂。
気になって扉を開けてみた。
…が少ししか開かない。10cmほどの隙間だけ。
「痛いんですけど。なんですか?」
その10cmの隙間から枕とチョコレート色の毛布、濡れたように艶やかな赤い髪がちらちらと見えた。
「すみません。気になってしまって。」
「はあ」
「あの、ミスラ。本当にそこで寝るんですか?」
隙間から赤い髪に向かって尋ねる。
「えぇ、まぁ。」
「ですが・・・」
「うるさいですね。邪魔しないでほしいんですが」
鬱陶しいと言わんばかりのダイレクトに伝わる声色。
ごめんなさいと小さく呟いて扉を閉めた。
自分もベッドに入ろうと書を閉じ、ふかふかの布団の中へ潜り込む。スタンドの明かりを消すと暗闇になったが暫くするとじわりと月明かりが差し込んできた。
目を閉じているとモソモソと扉越しに人の気配をしっかりと感じる。
気にしないようにしようと思ってもこの静寂の中では嫌でも聞こえてくるミスラの溜め息や寝返りを打つ音。