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微睡むお茶会【魔法使いの約束】

第1章 レモンティーの行方【ミスラ】冷→甘



「朝から賢者さんも大変だな」
甘酸っぱい香りを漂わせたレモンティーと焼きたてのパンを積んだカゴを私の前に置いてネロは隣に腰を下ろした。
朝の光を浴びて美しく澄んだ紅茶が目に入る。先程の重い空気をかき消してくれるかのよう。

「ありがとう、ネロ」
お礼を言って紅茶に手を伸ばす。爽やかなレモンの酸味と茶葉の良い香りが、何とも言えない今の気持ちを喉の奥へ流してゆく。ネロの淹れてくれたレモンティーはエグ味が無くとても美味しい。毎朝、最高の紅茶とパンを食べられる喜びを密かに噛み締めた。

「それにしても、部屋に入ってこないだけ良かったな。そこは律儀というかなんと言うか…」
ネロは苦笑いしてフォローしてくれるかのようにそう言った。

確かに。
一応部屋に鍵は付いてはいるもののミスラたち魔法使いには何の意味もないはず。
ネロの言う通りそこはミスラの律儀さに少しばかり安堵した。

「それでミスラちゃんは今どうしてるんじゃ?」
「眠そうにしてたので自分の部屋に行くように言いました」
あのまま部屋の前に居座られても困るところだった。

「結局ミスラちゃん眠れたんじゃろか?」
「…どうでしょう」
眠そうにはしていたがミスラのシンボルマークとなりつつあるクマは少しも薄くなってはいなかった。


「噂をすれば、だな」
ネロの言葉で後ろを振り返ると、トボトボと食堂に入ってきたミスラが見えた。
眉をひそめており、どうも機嫌が悪そうだ。

「賢者様」
私の所までやってきた。明らかにグズっている声だ。
寝たいのに眠れないイライラしたお馴染みの声。

「ミスラちゃん 眠れんかったのか」
「グズグズじゃもんな」

「な、何でしょう。ミスラ」
「あの後自分の部屋に戻りましたが全く眠れませんでした。賢者様の部屋の前がやはり良いです。今夜からまた扉の前にいますので今朝みたいな邪魔はしないでくださいね」
いつもと変わらないトーンで横暴なことを事も無げに言ってのけた。

「・・・・・・・・・」
言葉という言葉が出てこない。
「賢者さんの部屋の前だと眠れるのか?」
ネロの問いかけに
「ええ、少しですが。それでも普段よりずっとよく眠れたような気がします」

「ほう!やはり厄災の奇妙な傷の力が緩和されるんじゃな」
「さすが賢者ちゃん!」
双子の弾んだ声とは対称的にどうしたものかと重い気分で考えあぐねる。


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