第1章 レモンティーの行方【ミスラ】冷→甘
「なんですか」
やや鬱陶しそうに振り返ったミスラ。
「あの、もう一度チャンスを下さい」
自分でもよく分からない提案だった。
「チャンス?」
「はい、ミスラが眠れるお手伝いをさせてください」
「…人間は面倒なことをしたがりますね」
ミスラは呆れたように頭を掻いて呟いた。
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「で、どうして賢者様は眠れないんですか」
私の提案で思い直してくれたのか、ミスラは出ていくことなく部屋の真ん中に座った。
私も向かい側に座り込む。
「その、非常に言いづらいのですが」
「はあ」
「先程うたた寝、してしまったせいかと…」
「・・・・・・・・・」
絶対怒ってる…!
怖くて顔が見れない。
「極寒の北の国へ空間を繋げてもいいんですよ」
「へ?」
「永遠に眠りたいなら、ですが」
間違いなく怒っている…
それはそうだろう。眠れなくて自分を頼って(?)来たのに寝ないはうたた寝するはなのだから。
「永遠は勘弁して欲しいです…。えっと、うたた寝だけが原因というわけではなくて」
「・・・・・・・・・」
「緊張?しているような妙な感じです。あまりこういう経験がないので」
「何の話ですか」
「恋人でもない男性と同じ部屋で寝る経験…です」
そっとミスラを盗み見ると少し見開いた目と視線が合った。
ミスラにとって 私がそんな些細な事で悩む乙女だなんて思いもしなかったのかもしれない。
それはそれで失礼な話だが。
「・・・・・・・・・」
何も言わないミスラ。
段々と恥ずかしさも込み上げてきて居た堪れない気持ちになる。
緊張などミスラにしてみれば迷惑な話だろう。
自分は全く女性として見ていないような相手なのだから。
「あ、あの、飲み物でも持ってきますね」
居心地の悪さに立ち上がり、ミスラの返事も聞かず私は早々と部屋を出た。
食堂に着くなり、ひと息つく。
自分は何をやっているんだか。
眠れない上にミスラを引き止めてしまった。
だが、このまま彼を放っておくなんてもう出来ない。
何か良い方法があるかもしれない。
勿論、自分が寝ることがまず大事だがそれ以外の方法だって可能性が無いわけではないはず。こんな不思議な世界なのだから。
何とかミスラを眠らせてあげたい────