第1章 レモンティーの行方【ミスラ】冷→甘
「それじゃあ明かりを消しますね」
「はあ」
ミスラは少し離れた扉に近い床で毛布二枚に包まっている。そこからちらりと覗く赤髪が揺れる。
私はライトを消しベッドに潜った。
目が暗闇に慣れておらず今は何も見えないが、もぞもぞと毛布が擦れる音や自分のものではない息遣いが感じられた。
「…ミスラ」
静まり返った部屋では自分の声が響くように聞こえる。
「なんですか」
「寒くはないですか?」
「問題ありません」
「あの…」
「なんです」
「体は痛くないですか?」
「平気です。賢者様は早く寝てください」
面倒臭そうに答えたミスラ。
自分が寝なければいけないのは分かっている。
そうしなければミスラが眠れないのだから。
でも当然気にはなるし、そもそも男性と同じ部屋で寝ることに僅かながら緊張もあった。それが例え下心のないミスラが相手だったとしても。
今までそういった経験が無いことも無いが恋人以外の人となんてこれが初めてだ。
なんて事ないように振舞ってはいたが、自分でも気づかない程度にはミスラが近くにいることを意識しているようだった。
10分たったのか30分たったのか分からないが眠れない…。
寝なければと思えば思うほど寝れないなんてことはよくある話。
しかもスノウとホワイトが来る前にうたた寝までしていたのだから眠れないのも当然かもしれない。
私が眠れてないってことはミスラも起きているはず。
寝返りを打つ音が時々聞こえてくるが寝ている様子はない。
「…賢者様」
突然呼ばれた。
「は、はい」
「眠れないんですか」
どんな表情でミスラが言っているのかは分からないが申し訳ない気持ちになる。
「ごめんなさい…」
はあ、と溜め息が聞こえた。
「アルシム」
ミスラの魔法で部屋に明かりが付いた。
暗闇に慣れていた目の奥がジンと痛くなる。
「賢者様が眠れないならここに居ても仕方ないので俺は帰ります」
ミスラが立ち上がって毛布や枕を片付け始めた。
「え…」
更に申し訳ない気持ちになった。
怒っている様子はないが、きっと呆れたんだろう。
賢者としてミスラの役に立てない虚しさも湧く。
ミスラが部屋を出ていこうとするのを黙って見ているつもり、のはずだった。これで何も気にせずに自分は眠れるんだから。
だが次の瞬間、咄嗟に体が動いてミスラの黒のワイシャツを引っ張っている自分がいた。