第7章 卒業おめでとう【不死川実弥】
母も義父も好きだし、義父は本当の娘のように接してくれる。
まだ私が生まれて間もない頃に父が亡くなり…女手ひとつ、これまで彼氏の1人も連れ込む事はせず必死に育ててくれた母がようやく手にした『女』としての幸せ。
単純に嬉しかった。お母さんには本当に幸せになって欲しいと思う。
出来るだけ2人にしてあげたいと思い、家を出ると言ったら2人から散々反対されたけど…結局2人が折れる形で納得してくれた。
「…じゃあ、遅くなっても怒られたりしねぇなァ」
また、ニヤリと笑いながら私を見て車の助手席のドアを開けてくれた。
心臓が痛いほど鼓動を打って、上手く呼吸出来てないのか酸欠で頭がクラクラしてくる。
助手席に座りシートベルトをしていたら、すぐに運転席へ不死川先生が乗り込んできた。
「飯。何か食いたいもんあるか?苦手な食いもんは?」
『…いえ…と、特には…大丈夫…です…』
ガッチガチに緊張してしまい、上手く言葉も繋げられない。
「…一回着替えに家帰るか。制服じゃロクなとこ行けねえしなァ。どこだ、家。」
!!!……着替えてから先生と食事って、もう…それ…デート…ですか?
いつもなら躊躇って狼狽るどころじゃなくなる展開だけど…きっと今日で「最後」というシチュエーションが私を後押しする。覚悟を決めて先生に借りてる部屋の場所を案内した。
ハイツの前に車を停め、車で待っててもらうように頼んで急いで部屋へ戻り着替える。
こういう時…何着たら良いものか…。男の人と食事って…初めてなんだけど…。
散々悩んだ挙句、あまり待たせるのも悪いので小花柄のマキシ丈のワンピースに少し厚手のカーディガンを羽織った。そして、大急ぎで軽くメイクをして、髪をハーフアップにした。
『すみません!お待たせしました!』
車体にもたれながら煙草を吸っていたようで、私の姿を見て灰皿に煙草を押し付け火を消した。
ゆっくりと私の上から足先まで視線を配らせている。
……変、だっただろうか…?
「…制服とはやっぱり雰囲気変わるもんだなァ。…可愛い。よく似合ってる。」
優しく笑いかけられ、私の心臓はまた痛い程に高鳴ってゆく。
ズルイ…こんなにドキドキしてるのは私だけなんて…。