第7章 卒業おめでとう【不死川実弥】
「あの人、とっくに帰ったぞ。知らなかったのかァ?」
『いえ、メッセージ頂いてたんですけど…読書してたので全く気付かなくて…。いま、そのメッセージ読んだところです…。』
図書室に居残っていた訳を説明すると不死川先生は、はぁ…と小さく溜息をついた。
呆れられてるのかも…。なんだか情けなくなってきた。
『すみません、遅くまで校内にいて。…帰ります。…さようなら』
先生の脇を通り過ぎようとしたら思いっきり通せんぼされてしまい、先生の開かれた胸にぶつかってしまう。
『っ…!、す…すみません…』
「…お前、そう言えば最後まで話聞かなかったよなあァ…?」
見上げれば、ニヤっと不敵に笑っている先生。対照的にサー…っと青ざめていく私。
あれ、よね。…式前の廊下での事言ってるのよね。多分。
確かに自分の言いたい事だけ言って、走り去った…けど。
「…安積、これからの予定は?」
『?…家に帰るくらい…ですけど…?』
「…そうか。…ちょっと付き合え。」
今度は先生が私の返事を聞かず、昇降口で待ってろと言って図書室から出て行ってしまった。
1人取り残され…、不死川先生との会話を反芻してみるみる顔が熱を持ってゆく。
待ってろってなに!!?付き合えってどういうこと??!え、なにこの展開!?
脳内が喧しく、いてもたってもいられず…結果大人しく昇降口へ向かった。
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昇降口で待っている間に辺りはすっかり日が落ちてしまった。
肌寒く感じる風が吹く中、霞がかるような春の匂いが鼻の奥を擽る。
「悪い、待たせたな。」
黒い薄手のジャケットを羽織った先生が早足でやって来た。
『…いえ、あの…』
これから…どうするんだろう…?全く予測できないこれからに少しばかり不安を感じる。
「飯、行くかァ。腹減ったしな。…家に連絡しなくて良いか?」
『大丈夫です!…1人暮らし、なので…』
「!?…そうなのか?」
『はい。…母が最近再婚したので。2人で過ごしたいかなあって…散々反対されたんですけど、無理言って1人暮らしさせてもらってます。』
そうか…と、不死川先生は納得するように呟いた。