第7章 卒業おめでとう【不死川実弥】
「もうー、紗英ってば、泣くの早くないー?」
『ふふ…っ、ちょっと早まっちゃった…!』
友達の所へ駆け寄れば、薄ら涙を浮かべる私を少し揶揄ってヨシヨシと頭を撫でてくれた。
今日の日という陰に隠れて涙を流せば…きっと誰もが『卒業式』で泣いていると思うだろう。
誰も、恋の終わりに泣いている、なんて…思わないはず。
しん…ーーと、静まり返る体育館で来賓の祝辞や、卒業証書授与が厳かに執り行われてゆく。
少しだけ、教員席の方に目を向ければ不死川先生は卒業式でもシャツのボタンは開けたまま腕を組んで壁にもたれるよう立っていた。
先生の事を考えたら…止まっていたはずの涙がまた溢れ出しそうになる。涙を懸命に堪え、卒業生代表の答辞に耳を傾けた。
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卒業式も滞りなく終わり…教室で1人ひとり卒業証書を手渡されれば、さすがに男子も女子も、担任の先生も皆泣いていた。
仲の良いクラスだった。文化祭も体育祭も全力で取り組み18歳という微妙な年齢であるにも関わらず男女差なく和気藹々と過ごした。
ここにくればみんなが居る。…そんな当たり前の事が、明日から当たり前じゃなくなるなんて。
たった1日違うだけで、まるで何もかも変わってしまうんだ。
卒業アルバムの最後のページに皆で書き寄せしたり、落書きしたり。…いつか、懐かしんでページをめくる日がやってくるのかな。
在籍教員の写真が載るページを開けば…キラッキラの笑顔弾ける煉獄先生に、優しく笑う胡蝶先生、…写真撮ってる時ですら泣いてる悲鳴嶼先生…。派手にポーズを決めている宇随先生に、『無』って感じの冨岡先生。
そして…
第3ボタンくらいまでシャツ全開な上に不機嫌そうな不死川先生…。
『ふ…っ、はは…ッ!』
一体どういうテンションで撮った写真なんだろう?なんだか可笑しくて1人で笑ってしまった。
きっと、いつか…大人になって見返した時、また…違う気持ちで笑って見たりするんだろうか。
『良い思い出』だったと、笑って話せる日が来て欲しい。