第7章 卒業おめでとう【不死川実弥】
移動している生徒が喋っているから、周囲は騒がしいはずなのに…やたと静かに感じるのは先生も私も無言だからだと思う。
最後の最後に、こんなご褒美があるなんて。…真面目に高校生活送ってきて良かった…。…会話はないけど。
「地元…、離れるのか?安積は進学だったっけなァ?」
『あ…っ、はい。…大学に。』
「そうか。学部は?」
『教育学部です…。』
「じゃあ将来は先生だな。…安積は教えるのも上手いし、向いてるんじゃねえか?」
…そんな風に思ってもらえていたなんて。どうしよう、嬉しい。
「授業中とかでも、わかんねぇ奴に丁寧に教えてたろ?俺よりよっぽど良い先生になりそうだなァ。」
『…そんな。…かいかぶり過ぎです。』
ははっ!!、と軽快に笑う先生。…こんな笑顔は、初めて見た気がする。
いつも不敵に笑ってる先生の顔じゃなくて、少年のように笑う先生に心臓が追い付かない。
話している間に体育館に着いてしまった。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。…もうきっと、一生話すことも…会う事もないんだろうな。
『先生…』
「?…なんだァ」
『…私、先生のおかげで数学が好きになれました。大学に行ったら数学専攻して将来は不死川先生みたいに数学の教師になろうと思ってます。…そんな風に、将来なりたいものができたのは先生のおかげ、だから。…3年間ありがとうございました。』
…本当は数学が好きなんじゃなくて、先生が好き。
この気持ちも、今日で卒業しよう。
溢れそうになる涙を堪え、真っ直ぐ先生の目を見て話した。
こうして目を合わせて話すのすら、思えば初めてかも知れない。
…でも、最後くらい…良いよね。
『…好きでした。不死川先生…。』
やっと、声に出すことができた二文字。
すぐにペコっと頭を下げ、先生が言いかけた返事も聞かず、その顔も見ないまま友達の方へ走った。
もう、溢れそうになる涙を止められそうになくて。
こんな顔、先生に見られたくなかった。