第6章 朝日が昇る【竈門炭治郎】
その日絢瀬は1人で任務についていて…後から悲鳴嶼さんや他の隊士が数名増援として駆け付けたそうだ。
だが、もう時既に遅く…上弦の壱は去り絢瀬は虫の息だったという。
「私が声をかけた時には…虫の息だった。…身体中骨は砕け、足が切り落とされ失血も酷かった。…もはや何が致命傷だったかもわからん。…一言、紗英への伝言を預かっている。」
『……伝言…?』
「…墓参りも仏壇もいらん。…幸せに、なって欲しいと。笑って逝かれた。」
『……お見通しだなあ…っ、ふふ…!…っ』
笑い、泣けてくる。あの人は、自分が居なくなった後の私の事までお見通しだった。
「…豪傑らしい最期だ。」
『…豪傑…悲鳴嶼さんに遊び方教えてやるって遊郭に引きずって行った時は…ちょっと引いたな…』
「思い出させてくれるな…。南無三…」
『ふふっ…、はあ……そっか。教えてくれてありがとうございます。悲鳴嶼さん。』
「…お前は柱として、よく皆を導いてきた。お前の力は鬼殺隊にとってなくてはならないと思うが…私個人的な思いとしては、もう十分だと思っている。…引退し…ゆっくりこれからの生き方を考えてみてはどうか。」
引退…。柱を、鬼殺隊を辞める……ーー?…刀を、置く…。
『……考えて、みます…。』
「…絢瀬殿の最期を聞いてきた。笑いながら話が出来るようになった…その変化が、私は嬉しく思う。」
そう話すと、悲鳴嶼さんは優しく…優しく頭を撫でてくれた。
稽古もそこそこに、山を降り帰路に着いた。
引退…ーー。きっとお館様も許してくださるだろう。
その後はどう生きていこうか。
ぼんやり…これからの事を考えてみたが、何一つまとまらなかった。
そして。…やっと聞くことができた絢瀬の最期。
墓参りも仏壇もいらん。…言いそうだな。湿っぽい顔をして毎日訪れる私に、怒っていただろう。
幸せに…。絢瀬なくして幸せになれるものかと…思っていたけれど。…でも、……ーー、今は…。
少し、風向きが変わりつつあるのを自分でも認めざるを得なかった。
そして、もうそれは……怖くはなかった。