第6章 朝日が昇る【竈門炭治郎】
「…すみません。手、痛くなかったですか…?」
握りしめられていた手が離された。
あんなに離して欲しかったはずなのに…いざ離されるとチクリと心が痛む。
『…大丈夫。』
「鍛錬に戻ります。…じゃあ、また!」
大きく手を振りながら走り去って行った。
ちゃんと俺を見て下さい…ーー。
男性として、竈門くんを…見る。
素直で真面目で…お日様みたいに温かい。きっとこの身を委ねれば、温かく包み込んでくれそうな温もり。…出来るならば、側に居たいとも思う。
絢瀬がいなくなってから、ずっと…忘れていた温かさ。
だけど、それは…ずっと求めていた絢瀬の温もりではない。
『……私、貴方のこと…まだ思い出にしたくない。…けど、このままじゃ駄目よね…?………ねえ、返事…聞こえないよ…っ』
こんな私を見たら、きっと絢瀬は怒るだろう。
いつまでも自分の姿にしがみ続けている私に呆れるだろう。
泣き崩れる私を叱るだろうか。
こんなにも求めているのは絢瀬のはずなのに、目蓋の裏に浮かぶのは…竈門くんのお日様のような笑顔だった。ーーー…。
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「…集中していないな。少し休憩しよう。」
『すみません…』
悲鳴嶼さんと稽古するため、山の中を訪れていた。
「…どうぞ」
不死川の弟(兄は否定してるけど)が私たちに水を手渡してくれる。
『ありがとう、不死川くん」
いえ…とぶっきら棒に呟いて去って行った。真っ赤な顔…思春期はあんなものかな?と思い、竈門くんも似たような年頃だな…なんて、考えてしまう。
あの日から、事あるごとに竈門くんを意識してしまい…気付けば絢瀬の事を考える時間よりも多い。
……集中、出来ないはずよね。
「……絢瀬殿の墓参り…今も毎日欠かさず行ってるそうだな。」
『ええ…はい。』
「死者を弔う気持ちは大切なことだ。」
『…そうね。』
きっと私は、弔っているんじゃない…。
『…悲鳴嶼さん。…絢瀬の最期は…どんなだった…?』
悲鳴嶼さんは少し驚いたように私の言葉に耳を傾けている。
「紗英が絢瀬殿の最期を聞いてきたのは…初めてだな。…何か心境の変化でもあったか?」
そう問われ…やっぱり思い浮かぶのは竈門くんの顔だった…。