第6章 朝日が昇る【竈門炭治郎】
『私はね、竈門くん。…君に思いを寄せてもらえるような女じゃないんですよ。それが恋心でも、憧れでも…好きだと言って頂けるのはありがたいですけど…私には無理です。竈門くんにはもっと相応しい子がいると思いますよ。』
真っ直ぐ、ブレる事なく私を見つめるその瞳が苦しい。
『…長々と失礼しました。鍛錬中でしたね、私はこれで……っ!』
その瞳から逃げるように立ち去ろうとすれば、竈門くんの手が私の手を取った。
見た目はまだまだ少年なのに、その手は…大きく厚い。子どものそれではなかった。
「好きです。紗英さん…」
『…やめてください。』
「好きです。誰になんと言われても、紗英さんが無理だと言っても!俺は貴方が好きです!」
『!!…っ、やめてっ…離して下さい』
「離しません。」
『っ、…離しなさい!竈門炭治郎っ!!』
本気を出せば、この手は簡単に振り切れる。でも…どうして?離してほしいのに。絢瀬の前でこんな話したくないのに。
この手を…振り解けない。
「…上官の命令であっても聞けません。紗英さん、こっちを向いて下さい。俺を見て。」
こっちを向いてと言われても……その瞳に映る「私」を見たくない。真っ直ぐな嘘ひとつない瞳を向けてほしくない。
…私は、私自身の弱さから逃げているのね。
「俺を見て。…ちゃんと、俺のこと見て下さい。」
恐る恐る、竈門くんの方へと顔だけ向ければ…
まるで日の光のような温かい笑みを浮かべていた。
『……かま、ど…くん…』
「…絢瀬さんの墓前で、こんな事してすみません。…紗英さんから見れば俺はまだまだ子どもだと思うし、本気にしてもらえてないのも分かります。…でも、憧れじゃないです。俺は、一人の女性として紗英さんが好きです」
何と…返事をして良いのかわからなかった。
実直でいつも顔を合わせれば好きです!!と伝えてくれる少年の眼差しではない、男性が思いを寄せる相手へ見せる慈しむような眼差しで見つめられる。
絢瀬ではないその眼差しに…私は視線を逸らす事も、声を出す事も出来ないでいた。