第6章 朝日が昇る【竈門炭治郎】
あれから数日後、今日もいつものように墓参りに来ていた。
『おはよう。今日は良い天気よ…絢瀬。』
墓前で目を閉じ、そっと手合わせた。
「紗英さん!おはようございます!」
『!!、…竈門くん…。おはようございます…。』
真後ろから突然声をかけかれ、その声の主に驚きが隠せなかった。
『朝から走り込みですか?』
「はい!…近くを走ってたら紗英さんの匂いがしたので…、その…お会いできるかと、思って。…隊服じゃないですね!着物姿初めて見ました!」
よっぽでない限り、墓参りには隊服でなく私服で訪れるようにしていた。絢瀬の前では「1人の女」になりたくて。
『ふふっ…!そうね。髪も下ろしてるから、誰だか分からないでしょう』
薄ら顔を赤く染め、あはは…と照れながら笑っている。可愛らしいなと…素直に思えた。
「…どなたのお墓参りですか?」
『……夫』
「そうですか!夫…へえ…、えええ!!?お、夫!?けけけけ結婚してらっしゃったんですか!!?」
わかりやすく狼狽え、アワアワしている姿が可笑しくて可愛いくて笑ってしまう。
『ごっ…!ふふっ!!…ごめ…、ごめんなさい…っ!…夫じゃないです、嘘ついてごめんなさい。』
「え!?あ、嘘…!?夫じゃない?…そっか、そうなんですね。…でも、きっと…紗英さんの大切な人なんですよね?…いつも優しい匂いが紗英さんからしてますけれど、今はそれと…哀しい匂いがします。」
哀しい…匂い。
「鳴柱…絢瀬孝春、さん…。…紗英さんの前の、鳴柱の方ですか?」
墓石に彫ってある名前を竈門くんがゆっくりと読み上げた。
『……結婚するはずだったのよ。…叶いませんでしたけれどね。』
「だから…夫って…」
『そう。…毎朝、此処にきてこの人はもういないんだって確認してる。…私は遺体を見てなくて…小さな骨のカケラになった絢瀬しか知らない。……本当は…本当はまだ、何処かで生きてるんじゃないかって……』
分かってる。そんなはずない事。…ちゃんと理解してる。でも…
『……馬鹿よね。此処にくれば…ちゃんと現実として受け止められるから。…この人はもういないんだって、本当は……わかってるのよ。』
ポツ、ポツと話す私の声を一言も聞き漏らさないような真剣な面持ちで私を見つめる。