第6章 朝日が昇る【竈門炭治郎】
『私を…柱にと、仰るのですか…?』
私とそう歳も違わないお館様。けれども、その佇まいは同世代のそれではない。鬼殺隊の父としての姿がそこにあった。
「紗英は柱として不足なし、孝春はそう言っていたよ。僕も、紗英に多くの人の命を救ってほしいと思っている。……でもこれは、紗英に決めてほしい。」
絢瀬…貴方は…私が刀を置く事、許してはくれないのね。
形見なんて呼べるものをひとつも遺さずに逝ってしまったと思っていたけれど、『柱』という立場を私に遺したのね…
それが、貴方の最期の願いなら……ーー。
『謹んで…、お受け致します。』
「ありがとう、紗英」
お館様の声が、一瞬…絢瀬の声のように聴こえた。
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『…全く。誰に聞いたんです?しのぶ』
軽く笑いながら聞いてみたが、しのぶは変わらず少し悲しそうに微笑んだままだった。
「…紗英さんが、毎朝欠かさずお墓に参られているのは…皆、知っていますよ。…それが、『誰』の墓か…までは、知らないかもしれませんが。」
『…そうね。…此処にはいないって、毎朝確認しないと気が済まないのかしらね。』
いつまでも、あの日から進めていない私は…大馬鹿者だと思う。
思うけれども… 、そうせずにはいられなかった。何年経っても。
「炭治郎くんが、何か変えてくれるかも知れませんね。」
『竈門くんが…?』
「はい。歯車が回り出すように…何か、動き始めればいいなと思っています。」
『……そう、ですねえ』
絢瀬への気持ちが薄れていくのが怖い。
けれども、…何も変えることが出来ない自分は、好きじゃない。
矛盾している。
絢瀬、私は……貴方を「思い出」できる日が来るの…ーー?