第6章 朝日が昇る【竈門炭治郎】
悲鳴嶼さんの次に長く柱として鬼殺隊に身を置き、気付けば年長者の部類になっていた。
愛だ、恋だと色めき立つ事もなく…上に立ち続けてきたと思う。
それに…また『誰か』を好きなるなんて、今の私には考えられない。
『……私は、そういうのはもう良いですよ』
しのぶは少しだけ悲しげに微笑みながら、私の顔を見ていた。
『ご馳走様でした。そろそろ行きます。』
「……元鳴柱の絢瀬さん…ですか?…」
絢瀬。…私にはかつて結婚を約束した人がいた。まだ柱でない頃。絢瀬が鳴柱をしていた頃。
このまま結婚し…鬼殺隊を辞め、普通の…柱の夫を支える1人の女になるつもりでいた。
でも…そんな細やかな未来は、ある日突然潰えてしまう。
絢瀬が上弦の壱によって殺されたのだ。
その時、私は遠方で任務に就いており…知らせを聞き任務を終え本部へ帰った時には既に葬儀も済まされ火葬された後だった。
小さな骨壺に納められた絢瀬の骨。…これは本当に絢瀬なんだろうか、本当はまだ何処かに居るんじゃないだろうか。
私を抱く大きな腕も、私の名を愛おしそうに呼ぶ少し掠れた声も…私に口付ける柔らかな唇も、もう…どこにもない。
どんなに探しても、どんなに求めても…どこにも、なかった。
遺体を見ていないせいか、現実としてなかなか受け入れられない日々が続いた。
でも一晩、一晩…1人で過ごす夜を重ねる度。
いつまでも温まらない布団が、つい2人分作ってしまい余る朝食が…絢瀬はもういないと教えてくる。
茫然自失に過ごしていたある日、お館様の邸に招かれ絢瀬の遺書を手渡された。
「紗英に読んで欲しいんだ」
そう言われ恐る恐る、遺書に目を通した。
そこには、志し半ばにして倒れる事を恥ずとしお館様の悲願である鬼舞辻を倒せなかった事への懺悔と後悔が書いてあった。
鬼が蔓延る世を憂い、先の世でいつの日か鬼が殱滅される日を願うという遺書だった。
そして…ーー。
『次期鳴柱に…安積紗英を推挙する…。』
そう書かれていた。
「…絢瀬孝春、彼は凄い子だね。僕はね紗英、孝春の遺志を尊重したいと思っているよ。」
そう言うと、お館様は私の前に膝を下ろした。