第5章 今夜、君と恋に堕ちる。【不死川実弥】
…戻ってこねえな。
カナエ先生や悲鳴嶼先生と談笑してしばらく、紗英が戻る気配がない。…なんなら宇随の姿も消えてやがる。
あの野郎っ…!!
急いで席を立ち、2人を探しに出た。
トイレ近くの廊下、死角になる辺りで2人を見つけ…かけようとした声が飲み込まれた。
「…好きなんだよ、紗英ちゃんのこと。付き合ってくれねえ?」
耳に響く宇随の声。
紗英が逃げないよう、自身の身体と壁でガードを固めその手は紗英の顎に添えられている。
『…すみません…私…』
「不死川の事が気になるか…?」
『!!…っ、それは…』
「…俺にしとけよ。…俺なら、こんな顔絶対させねえけど」
『…っ、宇随せん…っせ!!やめ…っ!』
顎にあった宇随の手が首筋をなぞり、鎖骨の方へと滑らせてゆけば少し艶のある紗英が漏れる。
「良い声が出るじゃねえの…?もっと聴かせてくれよ…」
『ゃ…ッ、やめて…ください…っ』
目を潤ませ、か細い腕で宇随を押し返そうとしている。
「……ーーっ、嫌がってるだろォ。そこまでにしとけ」
2人の前にようやく割って入る事が出来た。
紗英は俺の顔を見た途端、赤く顔を染め顔を逸らした。
「なんだよ…野暮なやつだな。良いとこだったんだけど?」
「やめてくださいって言ってたのが聞こえなかったのかよ、てめぇの無駄に良い耳は。」
「…ぐずぐすして、大事なもん取られそうになってる奴に説教されたかないね。」
「!!なんだとテメェ…っ!!」
『やめてくださいっ!!…すみません、私…お先に失礼します…。ごめんなさい…』
紗英は走って店から出て行ってしまった。
「あーあ。帰っちゃったじゃん。」
「宇随っ!!テメェ…っ」
「怒ってる暇あるなら追いかけたら?…俺は他の男しか見えてない女の子を抱く主義じゃねえから」
「はあ!!!?」
「はあーーーー……なんでこう、どっちもいい年して…。わかんねえの?自分の気持ちも、安積ちゃんの気持ちも。…どんだけ安積ちゃんがお前の事好きか…、お前にはわかんねえわけ?」
宇随の言葉を最後まで聞かず、俺は店を飛び出し紗英を追いかけて繁華街を走った。
「…カナエ先生にミッション完了って報告だな」