第5章 今夜、君と恋に堕ちる。【不死川実弥】
滞りなく授業は進み、授業中に生徒が紗英にちょっかい出そうとすれば、思いっきりチョークを投げつけた。
昼休みは宇随に絡まれながら飯を食ってる姿が当たり前になり、適当にスルーしては用務員の鱗滝さんと花壇の手入れをしたりしていた。
俺とは…あれから学校や授業の事以外話す事はなくなった。やり取りしていたメッセージも実習中は1度も来なかった。
進展も後転…後転はしたかも知れないが、何事もなく実習は最終日を迎える。
「安積ちゃん、2週間お疲れ〜!!飲みに行こうぜー!ド派手に送別会といこうじゃねえか!」
宇随の一声で他の教育実習生や参加できる教員らで送別会をする事になった。
開始2時間…ーー。
だんだん出来上がってくる面々。
宇随は決してブレる事なく紗英の隣をキープし絡みに絡み倒している。煉獄は自分の担当実習生と熱く熱く歴史について語り合い、冨岡は…顔色ひとつ変えず誰とも話さないで隅っこで黙々と酒を呑んでいた。
宇随と紗英が話しているのを斜め向い側に座る俺は会話に入る事も出来ず、ただ黙々と酒を煽った。
「ねえ、不死川くん」
カナエ先生がヒソヒソと話しかけてきた。
「…はい?」
「いいの?…紗英、だいぶ宇随くんに押されてるようだけど…?」
カナエ先生と悲鳴嶼先生が心配そうに俺を覗き込んでいる。
「…良いも何も…、別に…俺は…」
歯切れ悪く答え、グラスに残っていた酒を一気に飲み干した。
「…紗英…、不死川くんとの関係…詳しくは言ってくれないけど、ちょっと悩んでたみたいよ。」
悩んでた…だと。そんな素振り一度たりとも感じた事なかった。いつも楽しそうに笑って…。…中途半端な名前もないこの関係を、あいつは終わらせたいんだろうか?
『…ちょっと、失礼します』
紗英が少しふらつきながら席を立つのが見えた。
「大丈夫か?付いてってやろうか?」
宇随の問いかけにほんのり赤らめた顔をして大丈夫ですよ〜と返し離れていった。