第5章 今夜、君と恋に堕ちる。【不死川実弥】
『そんなこと言われても。予鈴鳴りましたから。行きますよ〜』
いつもこうだ。怒ろうが何だろうが意に介する事もなく自分のペースは絶対に崩さない。此方がいつの間にか巻き込まれている。
「チッ……お前なあ…っ!」
腹立たしいが確かに予鈴は鳴った。授業をしなければならない。今が学生だったら確実にサボるところだ。
『…怒ってるの…?…何も言わなかったから…』
ピタっと歩みを止め、振り返り…射抜くような視線で俺を捉える。
「…っ、ああ…そうだ。何で言わなかった…?」
『……ビックリさせたかったから。…驚いた?』
先程までの射抜くような視線は何処へやら。キャッと笑ったかと思えば大成功〜!と言い上機嫌にさっさと歩いていきやがった。
「〜〜〜〜(怒)!!!!!」
怒りも沸点を軽く上回れば言葉になりもしないのだと、気付いた。
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「席つけぇ…初っ端小テストだァ」
いつもなら生徒がえー!?と不満そうな声を上げる所だが俺が不機嫌の塊である事を察しているのか、一言も声を上げず全員青い顔して大人しくプリントを回している。いつもこれくらい静かに授業受けやがれ。
カリカリ…と、ペンを走らせる音だけが教室に響く。
紗英といえば…教室をみまわり解答に詰まっている生徒に声をかけアドバイスをしているようだ。……ちょっと頬赤らめてんじゃねえぞ竈門炭治郎!!!!
イラつきが半端ない…2週間もこんな日々が続くのかと思うと地獄だ。
小テストを終え、通常通り授業を進めた。紗英は教育実習生らしく真面目に記録を取っている。
思えば…こいつのプライベートなんて殆ど知らねえな。
カナエ先生の後輩で、教員目指してて…今更気付いたが彼氏がいるかどうかさえも知らねえ。
一緒に飯食ってても、気付けば俺の事ばかり話してた気がする。教員て仕事がどんなものかってのを聞きたがるせいか、いつも俺ばかりが話していて、こいつは相槌を打って笑っていた。