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君がため【鬼滅の刃】

第5章 今夜、君と恋に堕ちる。【不死川実弥】




数学準備室で1人深く、深く溜息をつき…紗英の事を考えた。


出会ったのは1年前。紗英はカナエ先生の大学の後輩らしく悲鳴嶼先生と3人で飲んでいたところに、たまたま居合わせ合流した。

聞けば教員を目指していて、科目は数学と言うから俺たちはすぐに意気投合した。程よく酒も回り、悲鳴嶼先生はカナエ先生を、俺は紗英を送ることになり、なんだったら2軒目に行こうという話になり2人と別れた後、もう一軒行く事にした。

酒の入った成人した男女が行き着く先なんて…もう言わなくても察してくれ。


2軒目もそこそこに飲み屋街の外れのラブホに雪崩込み、そのまま朝まで過ごした。

出会ったばかりだとか、カナエ先生の後輩だとか、そう言う事はその時は頭になくて、ただただ快楽に溺れ互いの身体の相性の良さに夢中で抱き合った。


朝になり酒も抜け…まあ…ケジメといってはなんだが一応、付き合うか?と聞いてみたが、笑顔で断られた。笑顔で。

『不死川さん、手を出したからには…とか思ってるんじゃない?そんなの要らないから。気遣い無用だから。』

と、まあ…20歳そこそこの女の台詞とは思えない程にバッサリ断られた。

それからも2人で何事もなかったかのように飯に行き…一度越えた一線なんてものは後は何度越えても一緒で、抱き合うのは割と普通の流れだった。

そのままズルズルと、この関係性に特別な名前をつけることもなく今に至る。


だが…なんで今日から此処に来ること言わなかったんだ、アイツは。せめて一言くらい…話してくれても良かったんじゃないか?


紗英にとって俺は…ただ時々飯食って、ヤルだけの男って事か…。


腹の中でドロドロしたものが渦巻く。

そして、僅かに心の端を抓られるようなむず痒い程度の痛みがした。



コンコンっ……ー。


数学準備室のドアがノックされ、ドアが引かれる音がする。

『ああ、やっと見つけた不死川先生、1年生の授業が始まりますよ。』


紗英の声が数学準備室に響く。


「……返事してねえだろ…勝手に開けんなァ…」

紗英に目を合わせられず、キツい言葉で返事をしてしまう自分に嫌気が差す。



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