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君がため【鬼滅の刃】

第3章 37歳の初恋【鋼鐵塚蛍】




カンッ、カンッーー!!

鉄を叩く音が響く。あの日からどれくらい経ったか…ー。

俺は小屋の中で、ひたすら刀を打ち続けていた。時々、里の連中が様子を見に来たりしてたようだが(そっと握り飯が置いてあった)全く相手にせず打ち込んだ。


「なんや、雑念のこもった刀やなぁ」

「ーーーっ!!!吃驚させんなよ!!!」

2、3度刀を振ってみせた鉄珍様は、紙屑でも捨てるかのように刀をぽいっと投げ捨てた。

「なにすんだよっ!!!」

「こんな鈍打つくらいなら、せんほうがマシや。やめとき。」

ーーーっ!!!!


何も言い返せない。本当のところは分かっていた。打ちあがる刀はどれも納得いくものではない。

どれだけ打ち込んでも、払えない雑念。

打てば打つほど思い返される、紗英の震え青ざめた顔。


「…なに迷っとんかは知らんけどな。根本を解決せな、なーーーんも変わらん。こんなとこで引き籠って鈍打つくらいなら、外行ってこい。鉄の無駄や、むーーだ!」



…腹立つ!!…が、言われている事は正論過ぎて何も言えねえ。


小屋から出て、とりあえず自分の家に帰った。



「……あの子が癇癪のひとつも起こさんとは…」

「……明日は槍でも降るんでしょうか…」

「ところで、あの子どうしたん?」

「恋煩いでしょうねえ。」

「………(気絶)」

「長ぁあああ!!!?!?!」


俺が出て行ってから鉄珍様と、こっそり雲行きを伺っていた鉄穴森がこんな会話をしていた事を俺は知らなかった。



■■■■■■■■■■■



翌日、店を訪ねた。

「…邪魔する」

店の戸を開ければ吹き込む風で風鈴が一斉に鳴り響く。

『いらっしゃいませ……ーーっ!!』


風鈴に重なって聞こえる涼やかな声。

改めてその声を、姿を見てやっと分かった。

ーーー…好きだ。

全部、俺の…俺だけのものにしてしまいたい。

『…鋼鐵塚さん…あの…、』

「申し訳なかった!!!!」

生まれて初めて謝った。…と、思う。

「…お前に…、紗英に触れたいと…思って、つい手を伸ばしちまった。嫌な思い、させたな。」

『…ごめんなさい。私…帰って、なんて…言ってしまって。鋼鐵塚さんが悪い訳じゃないの。』


謝る顔さえ愛おしく思う。


ああ。こりゃあ…もう止められねえ。





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