第3章 37歳の初恋【鋼鐵塚蛍】
俺の指が、その絹のようになめらかな頬を撫でるとピクっと一瞬震えたかと思えば、途端に白い肌が朱に染まってゆく。
…面白れぇ。もっと見たい。
頬を撫でていた指は次に…耳へ、首へと滑らせてゆく。
『っ!!、ぁ……、はがね…づか、さん…っ?』
擽ったそうに身を捩らせ、少し顔を逸らして潤みきった薄茶色の瞳は上目遣いで俺を見上げる。その顔は紅潮し息を乱している。
少し触れただけでこの有様。…このまま暴けば、どんな顔をするのか。
「………面白れぇ」
そう告げた瞬間、パンっ!!ーー、と…触れていた手が叩き落とされた。
ジンジンと痛む手。面食らってしまった俺。
先程まで紅潮していた頬は青ざめ、恐怖を感じているかのように小刻みに震えている。
「っ、すまん…!」
調子に乗り過ぎたか…。
『…嫌、……帰って…、帰って!!!』
脱兎の如くその場から逃げていってしまった。
ポツン…と、1人に取り残される俺。店先で風に煽られた風鈴がチリン…と哀しげに鳴った。ーーー……。
「戻ったよーー……暗っ!!くっ……ら!!!え!?なんで店先でそんな暗い雰囲気纏ってんの!?営業妨害!!?」
阿呆みたいに店先で項垂れる俺を見て親父がヒィィ!!!と声を上げる。
ボソボソと、適当に端折って(流石に娘に手を出したとは言えない)事情を説明すると親父は、あぁーー…と何か納得しつつ煙管の煙を吐き出しながら天を仰いだ。
「…鋼鐵塚さん、あの子はね…男が怖いんだ。いや、そりゃね客の相手するくらいなら何でもねえが、『男』の顔されるとダメなんだろ。…師匠が言ってた。よく近所の男に色眼鏡で見られて、酷い時は悪戯されそうになった事もあるらしい。」
「先に教えろよっ!!!」
「……いや、早速手出そうとするなよ。馬鹿じゃねえの?」
「キィィィ!!!!!」
手を出そうとしたのはモロバレだった。
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その後、しばらくの出禁を言い渡され(当然)おずおずと里へ帰ってきたのだった。
恐ろしく影を落としている俺に、触らぬ神になんとやら状態で誰も話しかけては来ず、思う存分落ち込んでから雑念を払おうと鍛治小屋に引き籠った。