第1章 美術室の悪戯【宇髄天元】
「ほら、もうちょい腕の力抜け。…そうだ、これくらいの筆圧で曲線描きゃあ上手く描けるだろ。」
今、どういう状況かと言いますと…
宇髄先生が私の真後ろに居て、脚の間に私がいます。必然的にゼロ距離の状態にも関わらず、私の手を取り一緒に鉛筆を持ってるという……
控え目に言って逃げ場のない状況です。
先生の息が時折耳や首を掠めて擽ったくて、其処だけ異様に熱い。多分、耳も顔も真っ赤なんだろう。恥ずかしくて、でも…この距離に居られる事が嬉しくて、ずっとこの時間が続けば良いのに…なんて少し思ってしまった。
「…紗英…?」
右耳に微かに触れる唇と、熱い吐息。
『!!!っ…先生ぇ…、ち…近いから…!』
先生と付き合うことになったのは2ヶ月ほど前の事。
入学して一目惚れして…ずっと…ずっと密かに想ってきた。
やっぱり先生と生徒だから、この気持ちは明かさず…良い思い出のまま卒業するつもりでいたのに、高校3年生になったある日これまた美術室で居残りしてたら、宇随先生から好きだって言われて、私達はその日から付き合う事になった。
なったけど…
所謂恋人らしい事…例えばキスとか、その先…とか。
そういうのは全くなくて、高校生なんてやっぱり魅力がないのかなとか…生徒だから…とか、宇髄先生でも(失礼だけど)気にしたりするのかな…って、不安になったりした。
私の手に添えられていた先生の手がふいに離され、その大きな腕で後ろから抱き締められた。