• テキストサイズ

君がため【鬼滅の刃】

第3章 37歳の初恋【鋼鐵塚蛍】




『お義父さん、帰りました。』

涼やかな声が戸口から聞こえた。


街へ買い物に行っていたのか、手に大きな風呂敷を抱え重そうにしていた。

その頭は、頭髪を隠すためだろうか手拭いで姉さんかぶりをしている。

「おかえり紗英、重たかっただろう。ありがとうな」

『いいえ、あら?火男さん、いらっしゃい』


火男さん…火男…、俺のことかよっ!!!


「俺は火男さんじゃねえ!!鋼鐵塚だっ!」


…しまった。つい、いつもの調子で。ほらみろ、大きな目が更に大きく見開かれてるじゃねえか!


『…鋼鐵塚さん、と仰るんですね。失礼しました。今、お茶ご用意しますね』

俺が怒鳴っても全く動じる事なく、変わぬ涼やかな声でそう言って店奥へと消えていった。


「……鋼鐵塚さん、…前途多難だな」


この間、鉄穴森に言われた言葉をそっくりそのまま親父に言われてしまった。


親父はそう言うと、じゃあまあ若いお二人さんで頑張んな〜と店を出て何処かへ行ってしまった。


自由過ぎるだろ!!…1人にすんなよっ!!


「待っ……っ!!!!」


どんだけ早足なのか、親父の姿はもう通りの向こうで豆粒程の大きさになっていた。



『…あら?お義父さんは…?』

店奥からお茶を持って紗英が戻ってきた。


「……さ、散歩だそうだ」

『お客さんを置いて…すみません、自由な義父で。』

「問題ない。…お茶、頂くっ!」

盆の上から湯呑みを引ったくるように取り上げ、グイっと一気に飲み干した。


「あ!!!!っ、熱っっ!!!ゲホっ!」

ゲホゲホとむせ返ってしまった。

『大丈夫ですか!?』

むせる俺の背を摩り、手拭いを差し出してくれている。

「あ"あっ…ゲホ…すまん…っゴホ!!」

手拭いを受け取り口元を拭った。むせ過ぎたせいで涙まで出てきやがる。畜生がっ。

目元も手拭いで拭っていると、俺を見つめる視線に気付いた。


じーーっと、紗英が見ている。


「……なんだよ…?」

ハッと気付いた。手拭いで顔を拭っていたから火男の面がほぼ外れ、素顔が見えていたのだ。


『……綺麗なお顔。』

こいつの薄茶色の瞳に映る俺は綺麗なのか。変な感じだ。こいつに言われても嫌な感じがしない。



その頬に、そっと手を伸ばしてみた…ーー。



/ 202ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp