第3章 37歳の初恋【鋼鐵塚蛍】
「それはね、恋ですよ鋼鐵塚さん」
里へ戻り竈門炭治郎の刀身が赤くならなかった事をみたらし団子を食べながら鉄穴森に話していた。その流れで硝子工房での出来事をチラッと話せば、この回答だ。
「はぁぁああ!!?ふっざけんじゃねえ!!んな事あってたまるか!!!女に興味ねええよ!!」
「いやー、鋼鐵塚さんにもようやく春が来ましたか。良かった、良かった。」
「聞けよっ!!!!」
俺がどれだけキーキー喚いても無視して、分けてやったみたらし団子を食べながら飄々と言ってのける。…くそっ!みたらし団子返せっ!
「私も鉛に会った時、一目で恋に落ちました。いやー、鋼鐵塚さんにも人並みに恋に落ちる事があって私は安心しましたよ。刀にしか興味ないんだと心底心配してましたから」
だから聞けよっ!!!
「その娘さん、お名前は何と仰るんです?」
名前?……名前…。
「…知らねえ。聞いてねえ。」
途端、はぁぁぁああ…と深い溜息と共に肩を落とす鉄穴森。
「なんなんだよっ!!!」
「…前途多難過ぎて少々目眩がしました。」
「うるせぇよ!!!」
散々喚き散らかしてから家に帰り、ゴロンと横になった。
…恋。
そんなもんがこの世にあるのか。…いや、あるんだろうけども。
目を閉じると、硝子工房で会った娘の顔が目蓋の裏に浮かんできた。
異人のような顔立ち。…紡ぐ声の涼やかさ。
あの娘が俺の名を呼んだら…、……俺の手でその身体をあばいたら、どんな声で鳴くだろうか。
『蛍さん…っ』
艶かしい声で俺の名を呼び、鳴く姿を想像すると、むくむくと湧き上がる熱が中心に集まる。
カッと目を見開き、勢いよく起き上がって頭を大きく左右にかぶった。
阿呆かっ!!!!気色悪りぃっ!!!!勃つなクソがっ!!
渾身の力で自身を叩き倒して、その痛みに悶絶した。
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また別の日。
性懲りもなく硝子工房の前までやってきた。
みたらし団子を持って。