第3章 37歳の初恋【鋼鐵塚蛍】
この度、鬼殺隊士になった竈門炭治郎に日輪刀を納めに行った帰り、久しぶりに里外に出たということもあり、たんまりみたらし団子を買い込み、笠の風鈴を新調しようと硝子工房を訪れた。
あの野郎…赤い刀身が見れると思ったのに黒とはなんだ!!!黒とは!!!それでも赫灼の子かっての!ふざけやがって!!
キーキーしたいところではあるが、此処は馴染みの硝子工房…一応大人しくしていた。一応。
しかしまあ、同じ火を扱うといっても鉄と硝子じゃ出来上がるもんが全く違うから毎度面白いもんだと思う。
ひとつ風鈴を手に取り、ちりん…と鳴らしてみた。
『…いらっしゃい』
鳴らした風鈴の音色に重なるように涼やかな声が店奥から聴こえた。
ふいと、その方へ視線をやれば
絹糸のような長く薄茶色の髪を後ろで一つに束ね、若葉色の着物に身を包み、目鼻立ちが濃く、その瞳は髪と同じで薄茶色をしている娘が立っていた。
ーーーー異人か…?この店で初めて見る顔だ。
いや、そんなことよりも…生まれて初めて湧き上がるこの、なんと例えていいのかわからない臓物が煮えくり返されるような感情。
質の良い鉄を打っている時とも…渾身の一振りが出来上がった時とも違う高揚感。
なんだ、これは。この娘を見てると湧き上がってくる。
『…どちらか、お求めですか?』
風が吹いて店の風鈴が鳴り響く。
「………貴方、」
『……?』
「…貴方、を……求めてました…。」
なぁぁぁああにを言っとんじゃぁああ、俺はああああ!!!!
口に出してからやってくる唐突な後悔と自分への嫌悪感。
だいたい初めて会う、火男の面を付けた男にこんな事言われたら、ただの不審者だろおお!!気持ち悪いだろ!
いや、この火男の面は俺の誇りだが!!
一人、店先で悶え転がっていると後ろから、また涼やかな声でクスクスと笑っている声が耳を擽る。
『…楽しいお方、どうぞゆっくり見てらして下さいね』
……全く意に介していない様子にホッとしたような、少し残念のような…。
風鈴のような娘だ。涼やかで、奏でる音は小さくも美しい。硝子細工のように繊細そうで、触れたいが触れるのが躊躇われる。
ーーーー…鳴らしてみたい。
背筋を駆け上がる、なんとも言えない欲。
なんだ、これは。