第2章 鱗滝さんの恋愛事情【鱗滝左近次】
面を剥ぎ取り、その勢いのまま袖を摘んでいた紗英さんの手を取る。
「……いけませんよ、紗英さん…これ以上、俺に近付かないで下さい。…この意味が、分かりますよね」
大きな瞳を白黒させながら、豆鉄砲をくらった鳩のように驚きを隠さないでいる。
「生憎…俺は聖人君子でもないし、あなたの弟でもない。…ただの男だ。…男を家に上げ、泊まらせて…こうなる事、予測してなかったですか?」
しっとりとした肌ーー。そっと、指でその首筋から鎖骨にかけてなぞり浴衣の中に隠された乳房へ手を滑り込ませる。
『ーー!!っ、ん…』
乳房から、その頂に指を這わせるとくぐもった甘い声が漏れた。
その声を聴いて、少しだけ冷静さを取り戻せた。
浴衣から手を抜き、行き場をなくした手で拳をつくり膝の上に置いた。
「…すみません、…やはり失礼します。」
軽く頭を下げ、立ち上がろうとすると紗英さんが拳を作っていた俺の手を取った。
『…待ってください!…帰らないで、下さい…』
その頬は赤く、瞳は濡れていて、とてつもなく扇情的だ。
「…このまま此処に居れば、俺は貴方を抱く。先程言った意味はそういう事ですよ。」
『…承知の上です。』
「はい、…….ー、はい……?』
耳は良い方だと自負している。鼻もきく。いま、承知の上と言ったか。…承知…。…待て、待て待て待て。落ち着け、左近次。
『…夫を失って間もないというのに、酷い女と…はしたない女と罵って下さって構いません。…男の人を女一人の家に上げる事がどういう事を招くか知らない無垢な女ではありません。…抱いて下さい。鱗滝さん…。』
…嘘偽りない匂いがする。
「……全部、俺のせいにして下さい。…これから起きる事全て」
紗英さんが視線を合わせる為、微かに俺を見上げた瞬間その顎を取り口付けた。
啄むように、何度も何度も重ね合った唇は次第にどちらともわからない唾液を零す程に深くなり、互いの舌を絡める。
『んぅっ…!ぁ…う、ろこ…だき、さん…っ!』
口付けの合間に漏れる甘い吐息。
俺を呼ぶその声に己の中心に熱が集まってくるのがわかる。