第2章 鱗滝さんの恋愛事情【鱗滝左近次】
何をしてるんだろう、俺。
あのまま談笑し、夕食を頂き、今風呂に入っている。
ほんと…何してるんだろう、俺。
熱い湯で顔をバシャバシャと洗った。
このまま夜を迎えて…冷静でいられるか…?…待て。紗英さんはついこの間、夫を亡くしたばかりだ。そもそもそんな思考回路の自分が邪なんだ。恥を知れ左近次!
『鱗滝さーん?』
外から急に声をかけられた。
「はいっ!!!」
『お湯加減いかが?熱くないかしら?』
「問題ありませんっ!!!」
『そう?良かった。ゆっくり浸かってらしてね。』
……落ち着け、俺。
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「お風呂先に頂きました。ありがとうございます。」
少々上気せる程湯に浸かったが…雑念は振り払えないまま。
『いいえ〜。……お食事の時もお風呂上がりでもお面付けてらっしゃるのね?…もしかして寝る時も?』
「…まあ、もう…身体の一部みたいなものでして…」
『そう!…でも、一度くらいお顔拝見してみたいわ。…さて、私もお風呂頂いてきますね〜。』
俺の顔など…別に出し惜しむ程の面構えでもないが。なんとなく今更気恥ずかしいようにも思える。
程なくして風呂から上がってきた紗英さんを見て、俺はまた冷静でいられなくなる。
『鱗滝さん、ちょっとお湯熱くなかった?上気せちゃったわ。』
湯上りで暑いせいか厭らしくない程度に浴衣を着崩している。上気せたというその顔はほんのり朱に染まり、洗い髪を結い上げ頸に後毛がまとわりついている。
紗英さんの全てが色香を放っているのだ。
「…そ…、そうですか。」
まともに直視できない。…面をつけたままで良かった。
とてもじゃないけど、こんな顔見せられない。
『ねえ、お面。取ってみせて下さいな』
ーーーー!!!
湯冷ましを持ってきたついでに俺の側に寄り、軽く浴衣の袖を引っ張る仕草が…子どもっぽいのにその少しはだけた浴衣からチラリと見える鎖骨が…乳房が…。
理性の糸が焼き切れる匂いがした…気がする。