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君がため【鬼滅の刃】

第2章 鱗滝さんの恋愛事情【鱗滝左近次】




道中、屋台を出していないかと見周りなが歩いてきたが、あの日のように『うどん処』と看板を上げた屋台は見つけられなかった。


やはり、店は再開していないのか…ーー?

一人で切り盛りするには女手一つでは難しいんだろうか。



日が傾き始めた頃、ようやく紗英さんの住む家の前に着いた。


「ーーーーー……。」



さて、なんと声をかけたものか…。そもそもこんな時間に迷惑じゃないだろうか…?

…人様の家の前で突っ立って…不審極まりないぞ、俺。


『あら!鱗滝さん!!?』


通りの向こうから一際明るく、あの日と同じように溌剌とした声が耳に届いた。



「ー!っ…、紗英さん、…ご無沙汰しておりました。」


少し痩せただろうか、不健康そうな印象はないが初めて見たその日よりも少し頬や顎の辺りの丸みが減ったように思う。


『どうされたの?またお仕事?まあまあ、立ち話もなんですから上がって下さいな。』

こちらの返事を聞かず、サクサクと話を進め背中を押し家に上げようとする様子は初めて会った日と変わらない。その事が嬉しく面の下で小さく笑ってしまった。




『ーーー、それで今日はお仕事でいらしたの?』

お茶を煎れながら俺に問いかける。


「近くで療養しておりまして。…紗英さんの事が…少々気に掛かったものですから…その…お元気、かと…。」


なんて歯切れの悪い返事だ左近次。しっかりしろ。



『…お気遣いありがとうございます。この通り今は平穏無事に暮らせておりますよ。鱗滝さんのおかげです。』


にこやかに答えるその言葉に一点の曇りもない事が匂いでわかる。

ああ、やはりこの人は…決して罵ってはくれないし、俺の気持ちも…なかった事にはしてくれないのだ。むしろ、加速の一途だ。


「良かったです。…安心しました。」

『それよりお怪我されたの?大丈夫?』

「はい。大した事ではありません。もう暫くすれば任務にも戻れますので。」

『そう、…良かったわ。今日はもうこんな時間ですし、是非泊まって行ってくださいね!お夕飯何にしましょうか?!』


ーーー!!!!


ひと目見て帰るつもりだったんだが…。しかも泊まっ…。待て。落ち着け、俺。止める間もなく紗英さんは支度に取り掛かった。


理性と欲が交錯する夜が、始まる。



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