第15章 恋スル乙女【竈門炭治郎】
郊外の邸に着くまで、途切れながらも何かしら会話をしながら帰ってきた。
…何を話しながら帰ってきたかなんて…正直、全く覚えていないけれど。
邸に着く頃には日も落ちて、家に入ったところで炭治郎くんが禰豆子を外に出してあげていた。
禰豆子は私の姿を見るなり、ぎゅうう…っと腰の辺りに抱き付いてくる。
『?…どうしたの?禰豆子?』
「コラ!禰豆子!紗英さんは疲れてるんだから!やめなさい!」
幼い子を叱るように炭治郎くんが言い聞かせても、禰豆子は嫌々と首を横に振り、一層強く私を抱き締めた。
「禰豆子っ!?」
『大丈夫よ、炭治郎くん。禰豆子、ほら…抱っこして行こう。』
小さい姿の禰豆子を抱き上げ、居間へ向かおうとした。
「なんだか…お母さん…て、感じですね。」
『お母さん…?』
「いや、そうして小さい禰豆子をあやして抱き上げてる姿を見てると、親子みたいだなって。」
ニコニコと、慈しむよう穏やかに笑いながら炭治郎くんが話す。
きっと…全く悪気はないんだろう。
寧ろ、良い例えなんだと思う。
……思う、けど…。
今日だけは…素直に受け入れられない。
これが、カナヲなら…きっと姉妹になるのに。
『ふふ…っ、そう…ね。』
笑って誤魔化し…少し泣き出してしまいそうになっていた自分を禰豆子を抱き締めることで隠し、居間へと急いだ。
禰豆子は…「何」か察しているのか、炭治郎くんに対して少し威嚇するように唸り、私の事は…優しく、でも力強く抱き締めてくれる。
炭治郎くんが私達に近付こうとすれば禰豆子がわかりやすく威嚇するものだから、肩を落とし悄気ながら「…飯作ります…」と言い残し、台所へと消えていった。
『…心配、してくれたの?』
禰豆子は私の膝の上でちょこんと行儀良く座り、軽く縦に頭を振った。
『ふふ。…ありがとう。私は大丈夫よ。』
そう言って微笑めば、禰豆子がヨシヨシと頭を撫でてくれる。
『…お母さん…か。』
自分で口にしてみれば…なんとも喩えがたい感情が込み上げてくる。
私の年齢なら…小さな子どもがいたって不思議じゃない。
そりゃあ…炭治郎くんだって、お母さんに喩えるわよね。
いつまでも頭を撫で続けてくれる禰豆子をギュッと抱き締め…少しだけ、涙を流した。