第15章 恋スル乙女【竈門炭治郎】
「紗英さん!来てらしたんですね!今日はもう終わりですか?!一緒に帰りましょう!」
実のところ、炭治郎くんに見つからないようコッソリ帰るつもりだったが…鼻の利く炭治郎くんには誤魔化しがきかないのか割とあっさり見つかってしまった。
『え、…ええ。…帰りましょうか。』
ああ…なんだろう。普通の会話をしているだけのはずなのに…カナヲの事が気になって、上手く言葉が紡げない。
チラッとカナヲの方を見れば、いつものように穏やかに笑っているだけだけど…その胸中は穏やかではないのだろう。
好いた男が他の女と親しくしてる、なんて。
「じゃあカナヲ!また!!」
炭治郎くんはカナヲに向かって笑顔で手を振り、私の手を引きながら蝶屋敷を出た。
「なんか…悩んでます?…複雑な匂いがしてますけど…腹減りました?」
『!!?…いいえ!なんでもないわ!…あ、そうね!お腹空いたかも!?…今日は何を作りましょうね??』
正直、心臓が口から出るのでは…というくらい驚いた。
炭治郎くんは鼻が利く。人の心情を感じとるなんてお手の物だ。
…隠さなきゃ。こんな……嫉妬心、なんて。
しのぶに、やきもちですか?と問われ…あの時は否定したけれど、あながち間違いじゃない。
私は…炭治郎くんとカナヲの仲睦しい様子に嫉妬していた。
よくよく考えれば私は炭治郎くんよりも10近くも年上で。…元上官。…婚約者も居た。
…そりゃあ…同じ年頃の女の子の方が、話も合うだろうし、敬語だって使わなくていいし…、楽しいんじゃないかな。
どうしたって埋めることの出来ない年齢差。経験差。
「…紗英さん?…どうしました?疲れました?今日は俺が飯作るんで!ゆっくりしてくださいっ!」
心ここに在らず、といったように…ぼんやり考えていると、心配そうに顔を覗き込み笑っている炭治郎くんがいた。
『ぁ…、ええ。じゃあ…お願いしようかしら?』
取り繕うように笑顔で応えてみたものの…
上手く笑顔が作れていたかは、わからない。
炭治郎くんの視線から逃れるように顔を背けてしまう。
お願い、見ないで。
…こんな気持ち、あなたに知られたくないの。