第2章 鱗滝さんの恋愛事情【鱗滝左近次】
『…ありがとうございました…鱗滝さん。』
「ーー!!!」
何故礼を言う。俺は助けられなかった。あなたの大事な人を!
『…もう、これで…この街で悲しい思いをする人は…私で終わり。それに、この人は目を奪われなかった。…ありがとう、守ってくださって』
何も、たった一言でさえ、かける言葉が見当たらない。震え泣くその細い肩を抱く事すら今の俺には叶わない。
いっそ、何故間に合わなかったのかと、何故こんな目に遭わなければならないのかと理不尽に罵ってもらう方が良かった。
夜明けまで俺は何も出来ず、ただ大将の亡骸を前に啜り泣く紗英さんの側を離れる事さえも出来なかった。
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あれから三月経つ。
翌朝には新たな指令を受け、家を後にした。
俺は未だにあの日、別れ際に見せた泣き出したいのを懸命に堪えるような笑顔見せた紗英さんを忘れられないでいた。
そんなある日、鬼との闘いで負傷した俺は藤の家で暫く休息を取る事になる。
幾分身体も回復してきた頃、此処から紗英さんの住う街までそう離れていない事を思い出した。
訪ねていいものか。…俺と会ったら大将を亡くした夜を思い出してむしろ辛いんじゃないか?あの日責めこそしなかったが、本当は顔も見たくない程に恨んでいるのではないだろうか。
いや…いっそあの日罵られなかった分今度こそ思いっきり嫌ってくれれば良い。
そうすれば…この、邪な俺の想いもきっと断ち切れる。
あの日から紗英さんに惹かれて止まないこの気持ちが。
意を決して、俺は彼女の住む街へと向かった。