第14章 北風と太陽【不死川実弥】
掴んでいた手を離し、おおいかぶさっていた身体を退かせた。
「……すみません。…俺…。」
土下座でもする勢いで頭を下げ、謝る。…謝ったところで…もう、遅いのはわかっているが。
顔を上げる事が出来ずにいると、俺の手の上に…そっと紗英さんの手が重ねられる。
握り締めていた手首が赤くなっていた。
『…顔を上げなさい。不死川。』
いつかの、厳しくも優しい紗英さんの口調に反射的に顔が上がる。
「!!…っ……、…。」
怒っていると思われた、その顔は……、優しく微笑んでいた。
『…不死川の気持ちはわかったわ。…ありがとう。ずっと、想っていてくれたのね。』
「…、…すみません。本当…どうしようもねぇガキで…。」
俺がかぶりついた首筋は、先程よりも紅く染まり痛々しいほどに歯型までくっきり付いている。
『……太陽みたいなの。』
紗英さんがポツリと言葉を零した。
『炭治郎くんね、…太陽みたいなの。絢瀬だけじゃなくて…親兄弟も鬼に奪われた私には、太陽みたいだった。…雲ひとつない青空の下に連れ出してくれた…そんな存在。』
そう言って、玄関で出迎えてくれた時よりも柔らかく…心底愛おしそうに微笑んでみせた。
ああ、…敵わねぇな。
俺には、この人をこんな風に笑わせる事はきっと…出来なかった。
「…はは…っ、俺には…無理ですね。俺じゃ…太陽の下になんて…連れ出してやれねぇっす…。」
苦々しく笑って見せる俺を見て、紗英さんは小さく首を横に振り…重ねていただけの手を、ぎゅっと握り締めた。
『…そんなわけないでしょ。…不死川が、私の事慕ってくれていたのはわかってるわ。…そういう気持ちだとは気付けなかったけれど。…楽しかったし、嬉しかった。…不死川が実は凄く優しいって、知ってるわ。』
ふふ…っと、笑い握り締められていた手が少し緩められたが、今度は俺がその手を握り締める。
「…納得なんて…しないですよ。紗英さん。」
ほんの少しだけ驚くような表情をした紗英さんの手を引き、その身体を俺の腕の中へ収めた。