第14章 北風と太陽【不死川実弥】
大きな瞳がこぼれ落ちそうな程、見開かれ…虚をつかれたような顔をして俺を見ている紗英さん。
「…紗英さん。」
返事のない紗英さんに呼びかければ、一呼吸置いてから柔らかく微笑んだ。
『…不死川は、怒るんじゃないかと思ってたわ。』
ふふ…っと笑いお茶に口をつける。
俺の問いかけを否定しない。…それが、答えかよ。
「どうしてですか…!?…なんで…、あの野郎と…っ…納得いかねえ!なんでよりにもよって竈門炭治郎なんですか…っ!?」
気付けば……
畳の上に紗英さんを押し倒していた。
『…不死川……どうしたの…?』
押し倒されていても、その表情は変わらず…驚くわけでも、怯えるわけでも怒っているわけでもない。…ただ、優しく微笑みながら問いかけられているだけだった。
その余裕が悔しい。
力任せに手首を握り、押さえつけ…はだけた着物の裾に足を割り込ませた。
こんなの……、望んだ形でもなければ、最低な事だとはわかっていても…もう自分を抑える事が出来ない。
「………、好きだ。…ずっと、……紗英さんが好きでした。」
今更言って、「何」になるんだろうか。
こんな事をして、紗英さんが俺に…振り向いてくれるわけがないのに。
「…竈門炭治郎よりも、ずっと………、ずっと前から紗英さんの事……っ、」
乱れた髪…首筋に浮かぶ紅い印。
それが…、「誰」につけられたものか…なんて聞くまでもねえだろうが。
『!!?……っ、嫌…!やめて…っ、不死川……ッ!!?』
紅い印を俺で上書きするように、紗英さんの首筋へかぶり付いた。
歯を立て、そこへ舌を這わせ吸い付けば紗英さんの身体は小さく震えながらも俺から逃れようとする。
でも、そこは圧倒的な力の差。…いくら柱といえど、男で柱の俺には敵わない。
『……、っ…ぁ…嫌…離して…っ!』
俺が…守っていきたかった。…のに、好きな人が嫌がる事をして…泣かせて…何してるんだ…俺は。
少し涙声で抵抗する紗英さんの声を聞いて、頭に昇っていた血は潮が引くように…おさまっていった。