第14章 北風と太陽【不死川実弥】
本当はこんな風に、笑う人だったのか…。
これがあいつによってもたらされた笑顔かと思えば、…気に食わねえが。
それでも、紗英さんの笑顔なら…ずっと見ていられるのに。
『不死川が訪ねて来るとは思わなかったわ〜。』
鈴を鳴らすように笑いながら、俺を家に上げ居間に通してくれる。
前に住んでいた洋風の邸とは違い、よくある日本家屋だ。
「…前とは違いますね。」
『そうね、やっぱり畳がある方が良いなって。…そもそもあそこは、絢瀬の邸だったしね。』
こんな風に笑顔で元鳴柱の事を語るなんて。
…紗英さんは…もう吹っ切れたのだろうか。
『座ってて、お茶を用意してくるわね。』
居間に1人残され、ぐるりと部屋を見回す。
……男の気配はしねえけどな……。
置き物から装飾に至るまで、女の一人住まいに見える。
『なあに?…気になるものでもあるの?』
「!!…っ、…すみません…何でもないです。」
足音も、気配すらさせず俺の後ろに立つ。…引退したとはいえ、やっぱりこの人も…『柱』だ。
『女の一人住まいなんて、見まわしたところで何も珍しいモノなんてないわよ。』
クスクスと笑いながら、俺の前におはぎを出してくれる。
「…おはぎ。」
『不死川、おはぎ好きでしょ?』
今日来るとは一言も伝えていなかったのに。…好物を覚え、出してもらえるとは…な。
「…頂きます。」
行儀良く手を合わせてから口に運ぶ様子を紗英さんは変わらずニコニコしながら俺を見ていた。
『…それで?今日は、どうしたの?』
おはぎも二個目の半分が口に収まったところで、紗英さんが訪ねてきた訳を聞いてきた。
うっかり、おはぎにつられて本来の目的を忘れそうになっていたが…聞かれた事で、俺のくすぶる嫌な感情が湧き上がってきた。
「……竈門炭治郎と、恋仲だってのは…本当ですか?」
食べかけのおはぎを一気に口に放り込み、飲み込んでから尋ねた。