第13章 桜色に染まれば【煉獄杏寿郎】
優しく、包み込むように抱き返してくれる。
「…なんだ。…そうだったか。俺は勘違いをしていたようだ。」
『…勘違い?』
「…紗英は、俺の事を幼馴染みの兄を慕うような気持ちでいたものだと。だから、床入りも…俺の事を男として好いてもらってから…と。…不甲斐ない…。」
『ふふっ…ずっとお互い好きだったのに。…夫婦なのに遠回りしてましたね。』
「そうとわかれば話は早い!行くぞ!」
身体を離し、私の手を引いてズンズンと早足で歩いていく。
『え!?杏寿郎くん、どこに…!?』
私の問いかけに答える事なく歩いていく。
行先が全く検討つかず、ただ手を引かれついて行くしかなかった。
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川沿いの一角にある小さな素泊まりするような旅館。
杏寿郎くんが女将さんと何やら淡々とやり取りしていたと思えば、こちらに…と二階の部屋へと通された。
『…杏寿郎くん…?ここは…。』
「今日は此処に泊まるか。」
『え!?…い、いいの…?お父上や千寿郎くんに何もお声がけしてないけれど…?』
「うむ!烏を飛ばせば問題ないっ!」
…そういう問題なのかしら。…嬉しい、けれど。
杏寿郎くんと2人きりなんて…思えば初めてだ。
その事実に途端に恥ずかしくなってしまった。
「…今夜は2人きりだ。」
私の心情を察してなのか、どうなのか…微笑みながらそう言って頬に指を這わせる。
『…っ、…はい…』
触れられた頬が熱を持つ。…同じ部屋で寝ているけれど…こんな雰囲気になるのは初めてだ。
「そうだ、ここからも桜がよく見えるぞ!」
頬に触れたまま、反対の手で磨りガラスの障子窓を開けた。
『わあ…素敵…!』
川を挟んだ向こうに提灯の明かりに照らされ闇夜に浮かび上がる桜が目に飛び込んで来た。
窓枠に手を掛け、その光景をうっとりと眺める。
桜に気を取られていたら、ギュッと後ろから杏寿郎くんに抱きしめられ、首筋に唇が寄せられた。
『!!…ぁ、…っ…杏寿郎くん…っ!?』
「俺のことも…見てくれないか?」