第13章 桜色に染まれば【煉獄杏寿郎】
「今日は非番なんだ。久しぶりにゆっくり紗英と一緒にいられるぞ!」
ニコニコと笑って話す杏寿郎さん。
『本当!?あ、…あのね!夜桜、見に行こうよ!杏寿郎くん!』
一緒にいられる!と思ったら気持ちが舞い上がってしまう。
そうしたら…つい、昔のような口調で…呼び方で、杏寿郎さんに話しかけていた。
『っ、……すみません。…杏寿郎さん…。』
嫁ぐ前、母に言われた事を思い出した。
これまでのように杏寿郎さんに接してはいけないと。夫になる相手に対して『くん』をつけて呼ぶのも、敬語を使って話さなければならないことも。その言いつけに素直に従っていたのだ。
本当…いつまでも『幼馴染み』のままでいちゃいけないのに。
情けなくなり、俯いてしまう。
「…よし、行こう!弁当を拵えてくれるか?」
俯く私の頭をポンポンと大きな手で撫で、微笑んでくれた。
昔から変わらない笑顔。…ずっと大好きだった。
『お嫁さん』になれて、嬉しいのに。
何故か…何か、ずっと上手く噛み合わない歯車が空回り続けているような感情が、関係が…苦しい。
『幼馴染み』でいられた方の頃が…楽しかった気がする。
『…はい、腕によりをかけますね。』
杏寿郎さんの笑顔に返すように微笑めば、また頭を撫でて微笑んでくれた。
ちゃんと…『夫婦』になりたいの。
それがどうしてこんなに上手く行かないのかな。