第12章 目印を探して【我妻善逸】
最後の夜。
しのぶさんに頼み込んで蝶屋敷に泊まらせてもらった。
「…ここが蝶屋敷だと言うことを、お忘れなく。」
って、本当泣きそうなくらい怖い音をさせて…ガッツリ釘をさされた…。
さすがに…まだ万全じゃない紗英ちゃんに手を出すほど…俺はクズじゃないよ。…多分。
『…虫の音が聞こえますね。…いつの間にか、もう秋なんですねえ…。』
窓を開けていれば、少し湿度を含んだ…涼しい風が俺たちを撫でていく。
「…そうだね。」
何か、話したいのに。明日…夜が明けたら…もうきっと、会えないのに。
思えば思う程、言葉が出てこない。
『…ありがとうございました。…好きって…言ってもらえて、本当に嬉しかった。』
「…うん。…あのさ、ごめんね!俺…前に酷いこと言って…」
『……?…なんでしたっけ?』
ほらね、笑って…そうやって答えてくれると思ってたよ。
覚えてない訳ないのに…なかった事にしようとしてくれる優しさが…今の俺には…苦しいよ。
「…可愛くない…って、言ったろ?俺…。ごめん…。」
情けなく頭を下げた。
『…いいえ。本当の事だから。善逸さんが謝る事じゃないです。…今なんて、前より可愛くなくなっちゃった!』
あはは!と、火傷の痕が残る頬に手を当て…苦笑いする。
やめろよ。…そんな風に笑うなよ。
「…可愛いよ。」
『良いですよ、無理しなくて…。』
「可愛いよ!紗英ちゃんは、可愛いよ!そりゃさ…火傷の痕があったら…女の子は辛いよね、嫌だよね…でも…俺が可愛いって言ってるんだから…それで良いんだよ!」
『…善逸さん…。』
震える手で、紗英ちゃんの手を握り締める。
「…どこにいたって、見つけられる…目印が出来た。もう、迷わないよ、俺。」
いつ、どこにいたって…きっと見つけ出す。…その傷痕が俺たちの目印になる。
どこにも…誰にも迷わず…、紗英ちゃんを見つけ出す。
これから、離れ離れになったとしても。
「…俺、必ず迎えに行くから。だから…待ってて欲しい。」