第12章 目印を探して【我妻善逸】
何を1番に伝えたいか……。
しのぶさんに言われてから、ずっとその事ばかり考えていた。
目が覚めたら…やっぱり1番先に謝ろうか。
酷いこと言ってごめんって。
そしたら紗英ちゃんはきっと、何のこと?って言って…笑うんだ。
でも…1番に伝えたい事って、本当にそれなのか…?
もっと、もっと…大事な事…あるんじゃないのか…?
「…紗英ちゃん、来たよ〜…」
任務帰り、ヘロッヘロになりながらも蝶屋敷にやってきた。
『………ぜん…いつ…さ……?』
凄く小さくて、耳の良い俺じゃなきゃ聞き漏らしてしまいそうな小さな声。
「紗英ちゃん!!!??」
ベッドに駆け寄れば、薄く目を開いた紗英ちゃんが俺を見ている。
「紗英ちゃん!!目が覚めたんだね!!俺だよ!わかる!?善逸!!ひと月以上、眠ってたんだよ!!」
まだぼんやりとした意識。
伝えたい事…なんだっけ。散々考えたのに…いざとなったら何にも出てこない。
「…良かったっ…ッ!…良かったよぉ…っ」
言葉より涙しか出てこない。情けないよな、俺。でも多分、こんな情けない俺を晒したって受け止めてくれるのは…紗英ちゃんだけなんだと思うんだ。
『…善逸さん、だ…。』
力なく、俺の手を握り返しながら笑ってくれる。
なんだよ、眼鏡してなかったら目大きいじゃん。
それに……、なんでこんな…可愛いんだよ。大どんでん返しじゃないか。
容姿なんて…どうでも良い。…どうせ、みんないつかは爺さんと婆さんになるんだから。
そんな事よりも…またあの…、鈴を転がすような音が聴こえる。
まだ小さくて…その音は不安定だけど…
けど、確かに…聴こえる。
わかったよ、俺…この音が…、紗英ちゃんが……
「…好きだよ、俺…紗英ちゃんが好きだよ…。」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔。だいぶ不細工だし、情けない顔してるよ俺。
でも、……そんな俺に、俺の言葉に…。
笑って頷いてくれる君が好きだ。